一般号
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2005年2月発行 Vol.24 No.4 通巻84号一般号
論文
技術経営の発想によるIT 企業での技術知識の活用
IT の進歩と経済のグローバル化が進み,情報や知識の活用が企業の競争力を大きく左右する知識社会に移り変わりつつある.このため,IT の果たす役割は企業戦略の実現やビジネスモデルの変革へと拡大し,IT 企業に求められる役割も大きく変化している.こうした経営環境の変化に適応していくためには,経営の視点と技術の本質の両方を理解して,ビジネス全体をマネジメントする技術経営(MOT : Management of Technology)の発想が求められており,技術知識が中核的な資産となるIT 企業においては知識経営が重要となる.また,市場での競争構造は企業グループによる競合に変わり,グループ経営の視点で知識の創造と移転を促進する環境を構築することで知的生産性を向上させ,競争力と企業価値を高めることが必要である. こうした中,日本ユニシスグループは,機能集約と事業分社化によるグループ再編,ナレッジセンターや組織横断の技術委員会の設立,ナレッジと人材のポートフォリオの再構築など,技術と経営の両面から技術知識を活用するための様々な取り組みを進めている.
ウェアラブルコンピュータにおける小型ディスクドライブの有効利用法の紹介
近年,PDA(Personal Digital Assistant)や携帯電話などのモバイルコンピュータが急速に普及しており,これらは将来的にはGPS(Global Positioning System)[1]やカメラを内蔵したウェアラブルコンピュータ[2]として利用されると予想される.ウェアラブルコンピュータは,利用者のアシスタントとして動作する事が望ましく,機器が情報を能動的に利用者に提示する必要がある.また,画像などをサイズの大きいデータを格納するストレージとして,半導体メモリよりも低価格で大容量の小型ディスクドライブ(以下,小型ディスクと呼ぶ)を利用することは適当である. 利用者に有益な情報を提示するには,能動型データベースの利用が有効であるが,状況の判断を常時に行う必要があるため,データの参照などのディスクアクセスが頻繁に発生する.小型ディスクは,シーク時間,回転速度が通常のディスクに比べ劣るため,データアクセス速度に問題がある.また,近年,ウェアラブルコンピュータ上に能動型データベース管理システムを構築する研究が行われているが,それらは多様なウェアラブルコンピュータに対応できていない. 上記問題に対し,小型ディスク内のディスク制御プロセッサとバッファメモリを利用し,データベースシステムを小型ディスク内で動作させることを提案する.これより,ソフトウェアレベルでの共通インタフェースを提供することができ,多様なコンピュータで利用可能なシステムの構築が可能となる.さらに,小型ディスク内のリソースをデータベース処理に利用することで,ウェアラブルコンピュータへの負荷を軽減することが可能となる.また,データアクセス時間を短縮するために,小型ディスク上にデータベースのログを連続的に記録した追記型ファイルシステムを構築することを提案する.提案する追記型ファイルシステムでは,シーケンシャルアクセスを利用することにより,データ処理能力が向上する事が考えられる.また,ログのスキャンにより,過去から現在までの情報を検索するテンポラルクエリの実行,システム障害時におけるデータベース復旧が可能となる.本手法の有効性を検証するため,従来のページ単位アクセスによるファイルシステムとデータアクセス性能に関して比較実験を行い,高速にデータアクセスが可能であることを確認した.
テキストマイニング技術とその応用
コンピュータの処理能力向上により,テキストデータを用いた分析に対するニーズが高まり,テキストデータのマイニングが注目されている.数値化,コード化されたデータに対してのマイニングは従来から行ってきたが,1997 年以来テキストデータもマイニングの対象に加えるために,プロダクト開発とその適用を通じて,テキストマイニング技術を培ってきた. 本論文では,テキストマイニングの適用分野,技術,その製品開発,適用事例について述べることで,テキストマイニング全般について解説する.まず,2 章でテキストマイニングの適用分野について述べ,技術の利用範囲を規定する.3 章では,想定された利用分野で有効なテキストデータからの情報抽出方法と分析方法について述べる.4 章では,その技術を利用した二つの製品「MiningPro 21 文書マイニング・システム」と「TopicExplorer」について触れ,その適用事例を示すことで技術と製品の有効性を示す.更に,5 章ではテキストマイニングの適用分野であるコールセンターにおける「顧客の声」分析システムをモデル化して開発した「CVPro 活用系」に触れ,製品開発・適用を通じて培った知見について述べることとする.
顧客の声システム「CVPro」
顧客情報を個々の顧客の購買動向と突き合わせてその関連性を分析することによって顧客が商品を買うか買わないかの原因を探ることができる.しかし,この分析では「なぜ買わないか」「なぜ離脱したか」ということは分からない.顧客とのもうひとつの接点である声を分析することにより,企業イメージや企業が提供する商品やサービスの課題,さらには顧客離脱の原因を知ることができる. 顧客の声システム「CVPro(Customer Value for Professional)」は顧客の声と購買動向の関連性を分析するシステムである.CVPro の導入により顧客対応の迅速化と高品質化はもとより,離脱分析による課題や離脱原因の発見などが可能となる.本稿ではCVPro を通して顧客の声の管理方法や分析方法について述べる.
ES 7000 によるミッション・クリティカルLinux の実現
カーネル2.6 のリリースにより,Linux はエンタープライズ・システム向けのOS として急速に普及しつつある.本稿では,Unisys のエンタープライズ・サーバES 7000 をメインフレームIA サーバと位置付け,技術的な裏付けを元にES 7000 Linux によるミッション・クリティカル・システムの実現性を検証している.まずRASIS の観点からカーネル 2.4.9 とメインフレームの性能比較を行い,更にカーネル2.6 の強化機能による効果を予想することで現時点でのメインフレームとの性能差を比較している.次に,ES 7000 本体の実力をハードウェアとソフトウェアの両面から検証し,ES 7000 Linux におけるミッション・クリティカル要件を提示している.Linux によるミッション・クリティカル・システムは,すでに構築可能な範囲にあり,その実現に向けてソフトウェア・プロダクトの保守性の改善と Linux の高可用性をアピールしていく必要がある.
グリッドコンピューティングの標準的実装技術と検証モデルによる評価
ネットワーク接続された多数のコンピュータを活用し,大規模な処理能力を獲得するための技術として,主にサイエンス分野で使用されてきたグリッドコンピューティング(以下グリッドと呼ぶ)は,ユーティリティコンピューティングなど,次世代企業IT インフラの要素技術として活用が期待されることから,ビジネス分野においても注目されている. グリッドとは「広域ネットワーク上の計算,データ,実験装置,センサー,人間などの資源を仮想化・統合し,必要に応じて仮想計算機(Virtual Computer)や仮想組織(Virtual Organization)を動的に形成するためのインフラ」であり,技術的な視点から見ると,ネットワーク上に分散している異機種のコンピュータ・リソースを仮想化してユーザに提供する仕組みと言える.したがって,グリッドの実現には,リソースを仮想化し,更に仮想化したリソースをユーザに提供するための機能が必要である.このような機能を実装し,グリッド環境を構築するために使用されるのが,グリッドミドルウェアである. 本稿では,実績ある代表的なグリッドミドルウェアを用いて実際に構築した実験的グリッド・システムの紹介を通じ,グリッド環境の構築手法の一例を示す.また,同システムの簡単な検証結果を踏まえながら,現在の標準的なグリッド実装技術の特長や問題点について考察する.
IC タグの現状——システム化にあたる課題と解決の方向性
現在IC タグは事例が増えてきたことから注目をされ,多くの場所で適用の検討が行われている.ただし,導入にあたり制約となる要因が存在する.そのうち主たる要因は“IC タグの単価の高さ”,“適用にあたる検討と環境整備の難しさ”,“無線技術の限界”といえる.これら制約のうち,“無線技術の限界”はシステムや運用で補うことが可能であることから,運用よりもシステムでこれを補う機能を実装することが望ましい. また,IC タグシステムをシステム化する際,IC タグを用いないシステムに比べ,付加的に考慮すべき課題がある.それら課題は三つあり,(1)適用箇所の課題,(2)物理特性の課題,(3)情報システムの課題,である.これらの課題の解決の方向性は,(1)詳細な業務分析に基づく適用範囲の抽出,(2)経験に基づく無線機器の調整,(3)100% という絶対的な数値は保証されない情報システムへのIC タグデータの取り込みを補う機能の充足,である.
要求分析のための合成型手法工学アプローチ
システム開発プロジェクトは,しばしば予期せぬ障害に遭遇するが,これまでの固定的な手順に基づいた手法によって,それらの障害状況を解決することは困難であった.われわれは,一つの手法だけを使うのではなく,それぞれの障害状況に対応してそれらの手法が持っている基本的な操作を柔軟に組み合わせて使う方がより効果的であると考えた.本稿では,いくつかの著名な要求分析手法を分析し,それらの手法が共通に持っている基本的な操作を選択的に組み合わせて使用する方法を提案する.これを合成型手法工学と呼ぶことにする
セキュアXML クエリ——セキュリティビューによるアクセス制御
XML ベースのプロトコルを基盤とする電子商取引や電子申請が普及するに伴い,情報交換におけるセキュリティのリスク管理は,企業にとって重要な問題となってきた.XML セキュリティは,Web サービスのセキュリティフレームワークとして,W 3 C とOASIS によって標準化が進められた.しかしながら,ここで規定されるアクセス制御は,XML クエリにおけるセキュリティモデルとして,必ずしも充分なものではない.本稿では,XML 文書問合せに対する有効なアクセス制御の方法として,セキュリティビューに基づくセキュア XML クエリの手法を紹介する.XML セキュリティビューは,現在エジンバラ大学のデータベースグループで研究されている画期的な手法であり,柔軟なアクセス制御ポリシーの設定と効率的なアクセス制御が特長である.
アメリカン・オプション最小二乗モンテカルロ法の精度評価
アメリカン・オプションの価格付けは,オプション価格理論における最も難解な問題の一つである.アメリカン・オプションは,株式,債券,通貨等の主要金融市場において取引されていると同時に,近年では不動産や電力/エネルギーの分野においても利用されている.また,その理論はリアル・オプションとして投資やプロジェクトの評価にも用いられている. 理論解がないので,アメリカン・オプションの価格付けには二項モデルや偏微分方程式の差分解法などの数値計算手法が用いられてきたが,これらの手法は状態変数の数が多くなると計算負荷が指数関数的に増加するため,最近重要性を増している多次元問題には不向きである.一方,モンテカルロ・シミュレーションはパスを前進的に発生させて評価するため,満期におけるペイオフから出発して後退的に評価を行うアメリカン・オプションにはなじまないとされてきたが,Tilley[15]の論文以来,現在ではアメリカン・オプションの評価にもモンテカルロ・シミュレーションが用いられるようになっている.モンテカルロ・シミュレーションの収束性は次元の数にはよらず,パス数のみに依存するという点がその大きな理由である. 本稿は,最近Longstaff—Schwartz[10]によって開発されたアメリカン・オプションに対する最小二乗モンテカルロ法をとりあげ,その精度評価を行うものである.最小二乗モンテカルロ法は,アメリカン・オプションの続行価値を表す条件付期待値を最小二乗法による回帰によって推定するが,基底関数としてどのような関数を選べばよいか,またその個数をいくつにすればよいかについて不確定性が存在する.そこで,これらに関する知見を得るため,精度評価に際しては,ボラティリティーや相関係数が資産によらず一定でペイオフ関数が対称的な問題を扱い,最小二乗法回帰の基底関数として対称多項式を用いる.また,回帰領域の分割の効果,回帰の説明変数として低次元の縮約情報を用いた場合の精度について検討を行う.最小二乗モンテカルロ法は基底関数を適切に選択すれば非常に精度がよいが,シミュレーションの過程で行列演算を用いるので,他の手法に比べて計算時間がかかるのが欠点である.この欠点を克服するための計算時間の短縮方法についても最後に考察を行う.
知識分析に現れる「奇妙な」論理と,その古典論理への還元
形成途上の知識は一般に,不完全で暫定的な,矛盾,多義性ないし反事実的措定を含む命題群として表される.そのような命題群を単一の古典的形式理論の形に書くのは難しいので,知識分析はとかく,非古典的な論理に訴えがちとなる.しかし如何なる論理であるかは領域と論者に依存し,推論はしばしば,奇妙で不自然な振舞いを示す.しかも常に何らかの,論理を超える操作を必要とする.本論は単一の形式理論ではなく,複数の理論あるいは model の集まりを考え,それらの間の推移として知識の形成過程を捉える.その限りで論理を超えつつも,論理そのものは古典論理に留めるという方針に基いて,知識分析の様々な課題の,自然で直観的にも理解し易い解決を試みる.題材は幾つかの,範例的な謎や難問を選んだ.