トップメッセージ
世界で唯一無二のコーポレートブランドを築き、 ボーダーレスな発想で社会課題解決に取り組むことで、 社会的価値創出企業への変革を目指します。

BIPROGY株式会社
代表取締役社長
CEO CHO
平岡 昭良
新コーポレートブランドに込めた決意と覚悟
当社は、2022年4月1日付で「BIPROGY株式会社」へ社名変更しました。お客さまより「長い歴史とブランドイメージがある日本ユニシスという社名を、なぜ変えるのか」というお言葉もいただきましたが、決断に至った最も大きな理由は、「世界で唯一無二のブランドを手に入れたい」という思いがあったからです。
「ユニシス」というブランド名はグローバルで使用する際に制限があるため、ずっともどかしさを感じてきました。当社は2018年、設立60周年を迎えたときに、存在意義を「社会課題を解決する企業」と定義し直したのですが、それから前中期経営計画期間の3年間にさまざまな社会課題解決に取り組むなかで、良い解決策を生み出すにはボーダーレスな発想が欠かせないと思うことが度々ありました。「日本ユニシス」という社名には、どうしてもIT会社であるということと、日本国内という枠に自らをはめ込んでしまうイメージがあります。社会課題の解決には、IT以外にもさまざまなテクノロジーや、社会工学のような部分最適から全体最適をとらえる考え方が必要になります。さらに、人間はなぜ社会課題が生まれるような行動をしてしまうのかを考える「行動科学」の視点も取り入れた発想をしていかなければなりません。
このたび当社グループは、これから果たしていくべき社会的役割や提供していく価値を再考し、「Purpose(企業の存在意義)」として持続可能な社会の創出に貢献する社会的価値創出企業へと変革していくことを掲げました。このタイミングが、まさに私たち自身がボーダーレスな視座で唯一無二のブランドを築くために新たに出発する覚悟を示す時だと考え、新たな社名に変更することにいたしました。
ただし、社名を変更してもUnisys Corporationとの業務提携の関係は変わりなく、Unisys Corporation製品の日本国内での販売は今後も当社が継続して行います。
前中期経営計画を振り返って
2020年度は、中期経営計画「Foresight in sight 2020」の最終年度でした。業績面を振り返ると、新型コロナウイルス感染症の影響等もあり、システムサービスが減収となったため、売上高は目標としていた3,200億円を下回る3,097億円となりました。しかし、注力領域において収益性の高いデジタルトランスフォーメーション(DX)案件の増加や、アウトソーシングサービスが大幅に伸長したことで増益を牽引し、最重要指標としていた営業利益率は、目標値の8%を上回る水準を達成して、8.6%となりました。
前中期経営計画では「注力領域」「ICTコア領域」と区分していましたが、注力領域に含まれるDXビジネスが順調に拡大したことで、新経営方針を実行する土台をつくることができたと考えており、非常に手ごたえを感じています。さらにこの注力領域では、エネルギーマネジメントサービスなどの社会的価値を創出できるサービスをいくつも世に出すことができました。これは、社会的価値創出のためのマーケットそのものを生み出したという意味であり、そこで得たアセットをビジネスエコシステムによってさまざまな企業と連携することで、さらに大きくしていくための準備ができたのが前中期経営計画の3年間であったと総括しています。
2030年に向けた進路を示す「Vision2030」
3つの社会インパクトでデジタルコモンズ創造
当社グループがPurposeのもと、2030年に向けて進むべき方向性を定めたのが「Vision2030」です。持続可能な社会の実現を目指し、当社グループが考える「レジリエンス(自律分散した生存力・復元力のある環境)」「リジェネラティブ(再生型ネットポジティブ社会へ)」「ゼロエミッション(デジタルを活用した環境貢献、環境負荷の軽減)」の3つの社会インパクトを道しるべとしてビジネスを推進することで、「デジタルコモンズ(社会の共有財)」を創造し、誰もが幸せに暮らせる社会の仕組みづくりにつなげたいと考えています。
「見える化」でレジリエンスな社会インフラ構築
「レジリエンス」とは、災害発生や感染症流行など、突然の危機や環境変化に対する耐性の強さを表します。近年、日本も気候変動の影響を受けて、これまでは50年や100年に一度と言われていた大災害に、毎年見舞われることが珍しくなくなりました。こうした状況では、災害予測データを見える化・見せる化して対策を行うことが必要になっています。当社は、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第2期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の「Ⅱ.被災状況解析・共有システム開発」などに参画しており、衛星等により収集・観測したデータを活用し、被災状況を表す情報をいち早く抽出し、そこから今後起こり得る事態を把握、監視することで、災害対応(避難や緊急活動)につなげるべく活動しています。センサーやレーダー等で、災害発生前中後に自然環境のさまざまな変動を見える化することで災害のアルゴリズムを解析できれば、予測対応や迅速な初動が可能になります。
さらに、道路や橋、トンネルといったインフラも日本全国で老朽化が進んでおり、保守点検が必要ですが、橋梁の多くが地方公共団体の管理下にあり、そのすべてに対して定期点検や補修工事を実施することは、さまざまな面で困難な状況です。しかし、デジタルを活用すれば、ドローンの自動運転などと組み合わせ、撮影画像をAIで解析して補修の優先順位を決めることができ、レジリエントな社会インフラの構築が可能になります。また、橋梁の交通量をデジタルで見える化することで、交通量が多いところから優先的に補修工事を行うこともできるようになります。このような事例では当社グループ以外の企業や団体とともに、それぞれの技術や強みを生かしながら、業種・業界の垣根を越えて連携することで対応していきます。
古い仕組みをデジタルの力で再生
次の「リジェネラティブ」は、あまりなじみのない言葉ですが、日本語で言えば「再生させる」といった意味になります。現在の日本の組織のあり方やシステムは、今の世の中には対応しきれなかったり、潜在化していた問題が何かをきっかけに浮き彫りになったりするといったことが多くなっていますが、これをすべてゼロにして一から作り直すことはなかなか難しいのが現実です。しかし、過去から積み重ねたものにデジタルの力を加えることで、再生できる可能性が生まれます。
例として挙げると、日本ではコロナ禍でもスーパーマーケットの流通が滞ることはなく、品不足を感じることはありませんでした。これはひとえに、スーパーのみならず、メーカーや卸売、物流を担うエッセンシャルワーカーの方々の努力によるものです。一方で過剰在庫や廃棄ロスといった課題は引き続き解決すべき問題として存在しています。スーパーの発注は、現在は人手不足からAI発注への切り替えが進み、AIで気象情報や地域のイベント情報を分析し、どの商品がどれだけ売れるかを予測して仕入れることで、特に賞味期限の短い生鮮品や牛乳などの日配品(小売店に毎日配送される品)などは、売上機会の損失を出さず、過剰在庫も抱えないという仕組みができつつあります。こうした仕組みをスーパー内だけにとどめず、メーカーや卸売と共有することで、さらに過剰在庫を減らすことができるかもしれません。生産者や消費者とつなげれば、今は消費者もSDGsなどに対する問題意識が高いので、日配品を予約販売に切り替えられ、廃棄ロスゼロを実現できる可能性が生まれます。また、配送の最適化により温室効果ガス排出量の削減も期待できます。このように、デジタルの力でこれまでの仕組みをさらなる課題解決が可能になる新しい仕組みへと生まれ変わらせることをリジェネラティブと呼んでいます。
「ゼロエミッション」は廃棄物を一切出さない資源循環型の社会システム等と訳されます。デジタルを活用した環境貢献や環境負荷の軽減を実現する仕組みづくりには、リジェネラティブな仕組みも必要であり、なおかつ、どのような危機が発生しても企業や生活者の生活を維持するためにはレジリエンスが必要です。
このように、相互に関連する3つの社会インパクトに対し、ビジネスエコシステムのパートナーとともに、さまざまな業界や業種、マーケットの視点から貢献していく姿勢を表したのが「Vision2030」です。当社グループは「国連グローバル・コンパクト」に署名しており、これまでも基本10原則およびSDGs達成に向けた取り組みを推進してきましたが、今後は「Vision2030」への取り組みを通じ、より一層SDGs達成に貢献していきます。
「経営方針(2021-2023)」で示した2つの視点
「Vision2030」実現のための基本方針が「経営方針(2021-2023)」であり、この方針は2つの視点から定めています。一つは、お客様が目指す社会的価値に貢献するための「For Customer(顧客DXの推進)」、もう一つが、社会的価値創出のためのマーケットをお客様やパートナーとともに作り上げ、デジタルコモンズに変えることで社会課題解決を進める「For Society(社会DXの推進)」です。
すでに実施している例として、「BE+CAUS(ビーコーズ)」というキャンペーンプログラムの取り組みがあります。スマートキャンペーンと株式会社STYZが提供する寄付プラットフォームを連携させることで、例えばスーパーの会員であるお客様が参加メーカーの特定の商品を買うと、海洋ごみの清掃を行うNPO団体にメーカーが寄付を行うなど、生活者が社会貢献活動に参加できる仕組みです。これはまさにビジネスエコシステムのバリューチェーンになりますが、これが回るようになると、経済的価値が付加されたデジタルコモンズとして、さまざまな社会課題解決に取り組む人たちを応援できる仕組みが生まれます。特定商品のキャンペーンということで、最初は「For Customer」ですが、この仕組みを使うことで「For Society」の推進にもなります。
このアイデアを生み出したのは、当社の女性社員たちです。当社は、前中期経営計画期間から引き続き、エンジニアに「週に連続3時間は担当業務以外のための時間を確保する」というルールを定めていますが、そうした環境を最大限に利用して、社会貢献したい消費者と、資金を集めたい団体をマッチングさせ、メーカーと小売店を巻き込んだマーケティングの手法を社員たちが考えて呼びかけていった結果、生まれたものです。海洋ゴミのプロジェクトはほかにも立ち上がっていて、衛星データやドローンを活用して海流や漂着ゴミの流れや量を解析してゴミの回収・処分に役立てたり、自治体とも連携し、海岸に設置したIoT画像からボランティアが掃除するというアイデアの実験に取り組んでいます。集めたゴミを材料として燃料や別のものにリサイクルするという、ITではない取り組みともつながったエコシステムとなっており、この輪をデジタルでより広くつなげていければ、面白いマーケットが生まれるのではないかと思っています。
顧客DXの積み重ねによって、より良い社会の実現に向けた社会DXを推進し、お客様やパートナーとともにビジネスエコシステムを拡大していきたいと思います。
マテリアリティ見直しに伴う新たな取り組み
当社グループでは、サステナブルな企業を目指し、持続可能な社会の実現と持続的な成長サイクル確立の2つの側面から、重点的に取り組むべき課題をマテリアリティとして特定し、目標を定めて推進してきましたが、「Vision2030」制定にあたり、その実現に向けマテリアリティの見直しを行いました。さらに、役員報酬制度の改定も行い、このマテリアリティの達成度を含む中長期業績に連動した譲渡制限付株式報酬を新たに導入することとしました。この改定は、時代の変化が激しい中にあって、取締役の短期的業績に対する責任を明確にするとともに、中長期的に企業価値を向上させ、報酬の中長期的業績との連動性を高めることで、株主の皆様および社員と利益や目的を共有する狙いがあります。また、多様なステークホルダーに対し、社会課題の解決を目指す当社の姿勢を示すものでもあります。
現在、当社グループで手掛けるビジネスのうち多くがビジネスエコシステムにより創出され、デジタルコモンズにつながっていくビジネスであり、これは社会的価値にリンクするものです。社会課題を解決し、社会的価値を創出するには、テクノロジーのみならず、サービスや、サービスがもたらす社会的価値、ビジネスモデルに対する「目利きの力」が必要になります。また、イノベーションを推進していくためには、われわれが持っていない技術を持つほかの企業との連携は不可欠となります。これまで当社グループが培ってきた、テクノロジーを社会に実装する力を武器に、時代の変化に素早く対応する俊敏性と目利き力を高め、ビジネスエコシステムをさらに拡大し、デジタルコモンズの創造につなげたいと思っています。
望む人財像
今回、「経営方針(2021-2023)」を策定するにあたり、計画ではなく方針としたのは、変化に柔軟に対応するためには、Purposeを指針として、各自が自律的・主体的に対話をし、行動を起こしてほしいと思ったからです。Purposeにしても、トップダウンでいくら内容を説明しても浸透はしないでしょう。Purposeがわれわれ自身の持続可能性につながるという成功体験を積み重ねることで浸透していくのだと思います。また、それにより生まれるアセットは小さなものかもしれません。しかし、その小さなアセットを組み合わせることで、マーケットが生まれてきます。小さな物語でも、紡ぎ合わせることでムーンショットと言われるような大きな目標を実現することができます。
社員に望む人財像についてですが、当社は長期的に見ても社員の数をそれほど増やしておらず、これはIT会社では珍しいことだと思います。従来のビジネススタイルでは、人を多く入れれば売上もその分増えるという考え方でしたが、私は「人月ビジネス」ではない部分で価値を出したいと思い、チャレンジを続けてきました。ビジネスエコシステムなどを利用し、人財についてはもっとダイナミックな発想をすることが必要だと思っています。
一方で、コアとなる人財については、Purposeや「Vision2030」といった志を共有し、参加してくれる人を一番大事にしたいと思っています。必要なスキルセットを細かく定義すると、多様性が失われてしまいます。現在、社員に盛んに呼びかけているのは「ROLES」、つまり役割(ROLE)を複数持った人財になってほしいということです。イノベーションのためにも多様性を持つことが大切だと言われますが、自分の中に多様性がなければ、人の多様性はなかなかリスペクトできません。自分の中の多様性を「イントラパーソナル・ダイバーシティ」とも言いますが、自分自身にまず多様性を創ることで、ほかのさまざまな多様性を持っている人を尊敬したり、より多くの多様性を欲しいと思ったりできるようになります。私は、当社がそうした社員の集まりになってほしいと思っています。
どのような未来を創っていきたいか
当社グループは「Foresight in sight」をコーポレートステートメントとして掲げていますが、私はこの「Foresight」を「妄想」と訳しています。先ほどお話ししたキャンペーンプログラムは社員の妄想から生まれたものですし、私はずっと、社員に対して「妄想することに時間を費やしていいんだ」と伝えてきました。これも妄想になりますが、2050年の未来に向けて、「こういう未来を創りたい」という私の思いをロードマップとして、社内ではすでに公開しています。先に2050年の未来をイメージし、そこからバックキャストで2030年にはデジタルコモンズという概念が当たり前になり、社会課題を生まなくなっている世界とはどういうものかと考えたところから始まっています。
デジタルコモンズが成り立つには、多くの人々の信頼と評価が必要になります。共有資源を各々が好き勝手に使用したために、資源が枯渇してしまうことを「コモンズの悲劇」と呼びますが、この「コモンズの悲劇」を生まないためには、今の資本主義経済だけではなく、情報の信頼性が担保されている仕組みが必要になります。現在、そのような仕組みはまだ確立されていませんが、2030年から2050年といった未来を考えると、そのころにはフェイクさえ見破るAIができているなど、情報の信頼性(デジタルトラスト)も高まり、この問題は解決されるのではないかと考えています。
これにより、社会やシステムのボトルネックがどこにあるのかが分かり、全体最適を設計する社会工学により人々の行動変容を求めることが必要になったとき、行動科学をデジタルの力で社会に実装できれば、みんなでより良い社会を作っていけるのではないかということをイメージしています。行動科学の原点は、人はモチベーションを高く保てれば、周囲の環境に左右されず高い生産性を発揮できるというものです。
今後、社会貢献をしたい、持続可能な社会や住みやすい社会をつくりたいなどという思いを実現することで、社会工学と行動科学を良いバランスで両立できる可能性があります。それを「コモンズの奇跡」として実現するために、新コーポレートブランドのもと、さまざまなステークホルダーや人々が持つ知財や経験、アセットを結集し、社会的価値創出企業への変革を目指していきたいと考えています。