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持続可能な未来社会を創るデジタルコモンズⅠ

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デジタルコモンズによる創発的なオープンイノベーションの実現

アルムハメトヴァ メルエルト

本稿は,オープンイノベーションが創発的な共創に至らないという限界を踏まえ,創発を持続的に支援する「社会装置」としてのデジタルコモンズの構築を提案するものである.BIPROGYの実践と,SECIモデルおよびアクターネットワーク理論(ANT)の理論的知見をもとに,「共創的な創発の5段階モデル」を再整理する.これにより,個人の暗黙知が他者との相互作用を通じて社会的知へと転換され,最終的に知識・制度・製品として社会へ定着するまでの流れについて,「ネットワーク拡大プロセス」を中核的な原理として説明する.さらに,アシュビーの複雑性制御理論(最小多様性の法則・超安定性)とBIPROGYのシステム実践例を通じて,創発を支える基盤における「複雑性の適切なマネジメント」の必要性を示す.デジタルコモンズはこのようなエコシステムにおける創発プロセスを支える社会装置として,情報や知識の共有にとどまらず,意味や関係性の動的再構築を支援する共創基盤である.BIPROGYは中立性,広範な顧客基盤,大規模トランザクション処理能力,オープンイノベーションの実践知を武器に,この「デジタルコモンズ」を社会実装することで,複雑な社会課題の解決と持続可能な価値創造の実現を図っていこうとしている.

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企業アセット×共創で社会課題を解決する「kaleidosphere」

木村 瑞貴

BIPROGYでは,2022年度に企業のアセット活用による社会課題解決を目的とした取り組み企画を立ち上げた.その企画から生まれたのが,「kaleidosphere(カレイドスフィア)」と名付けたプログラムである.kaleidosphereは,企業が保有する多様な有形・無形のアセットを起点に,社会課題の解決と新たな事業創出を両立させることを目指す共創活動全体の枠組みであり,特定のアプリケーションやITツールを指すものではない.既存のアセットを組み合わせて新しい価値を生み出すことに特徴を持ち,段階的に構想化と検証を進める.
本稿では,このkaleidosphere のプログラムにおいて実践したアイディア創出の活動について,進行手法,得られた成果,そして今後の事業構想化へ向けての課題について整理して述べる.実践からは,アセットの可視化や少人数での対話,ファシリテーターの進行支援が,参加企業の具体的な構想形成に資する可能性が示唆された.一方で,アイディアを創出した後で,それらのアイディアから構想を練り,事業化にまでつなげるには,様々な課題が存在することが確認できた.また,アイディアの基となるアセットやアイディア自体の蓄積・活用の仕組みの検討も必要である.今回のkaleidosphereで実践したアイディア創出の活動を通じて得た知見や課題をもとに,各企業が持ち寄った有形・無形のアセットとともに,得られたアイディアをアセットとして蓄積し,参加者間で共有する仕組みの検討を進めていく.さらに,それらを事業創出へとつなげるプロセスの検討と試行を行っていく.

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相互信頼をかたちづくり学びと協働・共創が起こる場の枠組み

山田 茂雄

本稿は,デジタル時代におけるコモニング(共有資源の管理と活用)を通じて社会の課題を達成する枠組みを仮説として提案する.コミュニティは地理的制約を超えた共感と認知的信頼(相手の能力や知識・実績に対する合理的評価から生まれる信頼関係)に基づく自己組織化によって形成され,三段階のフェーズ(共創ネットワーク,目的指向コミュニティ,共同プロジェクト)を経て課題の達成へと進む.特に知識創造の実践としてのコモニングが重要であり,出会い・共有・学び・共創・規制の五つの集団的実践を通じて知識コモンズを創出し,維持する.また,生体知能と人工知能の協調により創発するコミュニティの集団的知性は,複雑な問題への対処能力と行動の俊敏性を高める.社会の問題の解消や課題の達成に挑むとき,この,仮説として示したコミュニティを単位とする〈相互信頼をかたちづくり学びと協働・共創が起こる場の枠組み〉はその唯一のやり方でもなければ,成功を約束する特効薬でもない.だが,ボリエが説くように,人が集い,同じ経験を共有し,実践的な知識を蓄積するなかで有機的に形成されるコモンズは,意思決定権限の分散,自己組織化,実践ベースという三つのアプローチで集合的に社会を作り変えることができる.

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コミュニケーションにおける理解や共感の促進にむけた取り組み

斉藤 功樹,榎本 真,銭尾 春仁

コミュニケーションにおいて理解や共感は重要な役割を果たしており,それらを促進することで信頼関係が醸成され,生産的で効率的な関係を構築できる.本稿ではコミュニケーションにおける理解や共感の促進に向けて,実際のコミュニケーションを模した実験を行い,対話内容の可視化と相手の理解度や共感度などの状態推定に取り組んだ.その結果,対話内容の可視化においては絵や図などで構造化するグラフィックレコーディングの一部を自動化して表示することにより,聞き手の理解を促進する可能性が示唆された.相手の状態推定においては,聞き手と話し手の生体情報の同期度を用いることで聞き手の理解度や共感度を推定できることが明らかになった.

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カーボンニュートラルの達成に向けた非化石証書の活用と環境価値管理サービス「Re:lvis」の提案

今井 諒太

日本では, カーボンニュートラルの達成に向けて, 化石エネルギーからの脱却と温室効果ガスの削減, 経済成長を両立させるGX(グリーントランスフォーメーション)が進行中である. 設備やコストの観点から短期間での対応が難しいため, まずは非化石証書を取得し, 自社の電力が非化石電源から供給されていることを証明することが重要である. しかし, 非化石証書の管理は複雑であり, 担当者の負荷の増加や属人化などの課題が散見されている.
BIPROGYは, 非化石証書の調達や割当のための情報管理をデジタル化し, 効率化を図る「Re:lvis」という環境価値管理サービスを提供し, 企業がカーボンニュートラルを達成するためのサポートをしている. 非化石証書を利用する企業やこれから利用を検討している企業に, Re:lvisの利用を広げることで, 非化石証書の利用をさらに活性化し, カーボンニュートラルを達成する企業が増えることを目指す.

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データセキュリティにおける認証・認可技術の変遷と今後の展望

三宅 健,今泉 直柔

デジタル化が進む現代社会では,データセキュリティの重要性が増している.データセキュリティとはデータを「機密性」,「完全性」,「可用性」の観点で保護することであり,これを実現するために様々な技術が存在している.「認証」や「認可」という技術はデータセキュリティの中でも特に「機密性」の確保において中心的な役割を担っている.パスワード認証や多要素認証,SSOといった技術やAIの活用,ITDR,ブロックチェーン,量子コンピューティングといった技術が不正アクセス防止に貢献している.BIPROGYグループは,これらの技術を用いて顧客に最適なセキュリティソリューションを提供している.安全で快適なデジタル生活を送るために,認証・認可技術の基本的な仕組みや重要性を理解し,利用環境や状況によって適切な技術を選択し活用していくことが重要である.

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システム開発工程へのサイバーレジリエンス視点組み込みの提言

伊藤 直行

日本国内でランサムウエアによる被害は拡大しており,一部の事例ではサプライチェーンをも巻き込んだ事業停止を引き起こしている.情報システムにおけるセキュリティ品質を担保することの重要性は日を追って高まっている.2022年に発生したランサムウエアによるセキュリティインシデントでは,基幹業務システムが利用不能となったことで全面的な業務停止に陥り,復旧には数カ月を要した.このような被害を防ぐには「サイバーレジリエンス」の視点が重要である.「サイバーレジリエンス」とは,サイバーセキュリティ攻撃の影響を最小限に抑えつつ,迅速に元の状態に回復する能力を指す.情報システムの開発工程でサイバーレジリエンスの視点を組み込むことの重要性は,今後さらに増していく.

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