一般号
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2011年2月発行 Vol.30 No.4 通巻107号一般号
技報107号には、経済産業省の情報大航海プロジェクトでの研究成果である「生体情報収集基盤」、「空気が読めるコンピュータ」実現への第一歩である人間のコモンセンス知識獲得のためのwebゲーム開発、MITメディアラボから生まれた社会全体の持続可能性を高めるオープンソースwebアプリケーション「Sourcemap」、総務省「地球温暖化対策ICTイノベーション推進事業(PREDICT)」の支援による温室効果ガス排出量取引手法のモデル化と個人レベルの排出量取引の紹介、要求の定義にテストの視点を持ち込むことで誤ったテストケースの作成を防ぐ方法、システム基盤設計時の仕様記述方法と検証の自動化、以上7編の技術論文が収録されています。
予防医療を実現する生体情報収集基盤
経済産業省が実施した情報大航海プロジェクトにおいて、糖尿病の予防医療を実現する疾病管理システムを構築した。本疾病管理システムは、生体情報を取得する複数種のセンサ、生体情報を取り扱う生体情報収集基盤、特定の疾病を管理するアプリケーションから構築された。生体情報収集基盤は、糖尿病患者50名が約4ヶ月間参加した実運用を通して評価され、生体情報の収集と、患者が生体情報を計測する傾向の把握に成功した。本稿では生体情報収集基盤に焦点を絞り、システム開発で得られた知見に関して整理した結果と、予防医療を実施する際の課題を述べる。
日本でのコモンセンス知識獲得を目的としたWebゲームの開発と評価
コンピュータが日常の様々な出来事について理解し臨機応変に動作する仕組みを実現することは、長年に渡り取り組まれてきている研究課題である。その実現には、私たち人間が暗黙に共有していてコンピュータが持っていない広く膨大な知識(コモンセンス知識)を獲得する仕組みが必要である。本稿では、インターネットを利用する多くの人々から短期間で効率的に日本のコモンセンス知識を獲得する目的で開発した連想ゲーム「ナージャとなぞなぞ」について報告する。本ゲームにより、幅広い日本のコモンセンス知識を短期間で大量に獲得できたことを示す。また、本ゲームが多様な目的の知識獲得に対応可能な、柔軟性の高い手法であることを示す。
持続可能性を高める行動を促す情報技術“Sourcemap”
日々のビジネス活動において、CO2排出量に代表される環境に配慮した製品作りや工程の実践はもちろんのこと、環境問題への貢献目標・貢献度を示すことの重要度が増している。また、環境貢献を示す対象は「数値データ」だけではなく、製品を製造・販売する上で必要となる原材料や工程も含まれるべきである。原材料や工程を可視化することにより、希少金属など再生や代替が不可能といわれる貴重資源の枯渇防止への貢献や、原材料発掘拠点、加工拠点における地域社会と環境の問題を浮き彫りにし、解決のための行動を促すことができるからである。 米国マサチューセッツ工科大学メディアラボは、研究テーマプロジェクト「Sourcemap.org」を手掛けている。Sourcemap.orgは、快適安全な生活を営むことのできる環境、そしてそれを取り囲むビジネス、社会、文化全体が持続する可能性(持続可能性:Sustainability)を高め、人類の未来を守ることを目指す。プロジェクトの核となるのは環境へのインパクトを可視化し、見る者に持続可能性を高める行動を促すことによりその考えを実践するオープンソースWebアプリケーション「Sourcemap」である。本稿ではSourcemapの概要、Sourcemap誕生の礎となったビジネスシナリオの紹介、そしていくつかの技術説明を通して情報システムが人類の未来を守ることにどのように寄与できるか言及する。
排出量取引手法のビジネスモデリング
温室効果ガスの排出削減を加速する上では、実経済活動であるサプライチェーン上で簡易な排出権取引ができることが望まれる。それを実現するためには排出枠を有価証券のように実体化する考え方がある。その手段として電子タグもしくはバーコードを使用する研究を基に、簡易な取引を実現する手法を検証した。検証にはビジネスモデリング手法を採用し、現行信託制度との相違による課題を解決するための、商品販売者や信託事業者などのステークホルダの役割分担モデルを3種類作成し、それぞれを検証した。その結果、排出枠口座管理において排出枠を小口管理する際の出所の明確化の必要性があることや、有効期限をどのように扱うかなどの重要な機能の存在が判明した。
個人レベル排出量取引
企業や事業所にCO2排出許容量を設定し、実際の排出がそれよりも少なければ差分相当の排出許容量の売却を可能とし、逆に多ければ罰則を課すか他社から排出許容量を購入させる排出枠取引が日本でも話題に上りはじめている。しかし、当該制度で先行する欧州では、排出許容量を個人に課す個人レベル排出量取引(PCT)まで議論が進んでいる。本稿は海外のPCTに関する各種提案を紹介するとともに、国内状況に応じた新しいPCT手法を紹介する。なお、後者については2011年2月にイトーヨーカドーの店舗にて実証実験を行った。
ゴール指向要求分析法を用いたソフトウェアテストの品質向上
ソフトウェアの品質を確保するためには、要求を正しく理解して設計や実装に反映するとともに、適切なテストを行う必要がある。しかし、開発の工程が進む途中で要求が誤解されたり、設計の考慮漏れが発生したりすることがあり、それがテストの漏れや誤りによって見逃されることがある。本稿では、KAOS法の四つのモデルにテストモデルを追加することによって、要求獲得時にテストで確認するべきことを明らかにし、テストモデルとゴールモデルを使用してテストの品質を向上させることを提案する。
システム基盤設計における仕様の抽出と記述 ──形式仕様記述と設計検証自動化の試み
システム基盤の設計には、基盤に対する要求仕様のほか、これを構成するハードウェアおよびソフトウェアモジュール、モジュール間の接続性といった仕様への理解が必要となる。こうした仕様の抽出は必ずしも容易ではないが、これを明確に記述することで、設計の妥当性を示すことができる。また、この記述に形式仕様記述言語を使うことで、製品仕様自体の検証や、システム設計検証の自動化への道も拓ける。