BIPROGYグループの技術戦略Ⅱ
技報サイト内検索
2025年3月発行 Vol.44 No.4 通巻163号BIPROGYグループの技術戦略Ⅱ
本号では、BIPROGYグループの技術戦略に沿った取り組みを紹介する特集号の第二弾として、IoTデバイスのセキュリティ対策、次世代に求められるデジタルアイデンティティの在り方、IOWNの動向などを紹介します。また、生成AIの回答精度向上のための、非構造化データの構造化技術に関する、大日本印刷株式会社の寄稿を掲載しています。
エッジコンピューティングにおけるデバイスセキュリティ対策
AI処理の普及と組み込みハードウエアの高性能化に伴い, Pythonなどのスクリプト言語で実現したAI機能をIoTデバイスに実装することが容易になった.一方,IoTデバイスはその利用形態上,屋外など第三者が手で触れられる場所に設置される場合があり,盗難などのリスクがある.もし分解され,内部の情報にアクセスされれば,プログラムコードや学習モデルなどが解読され,知的財産の流出に直接つながってしまう.
こうしたリスクに対応するため,IoTデバイス内部の情報の暗号化とネットワーク分割に加え,復号鍵を分割保存することで鍵の漏洩リスクにも対応した鍵分割方式の考え方を基に検証用システムを作成し,正常に動作することを確認した.実運用時にはポートの無効化や人為ミスの防止などへも注意を要する.
UXデザインとデータ活用の実践アプローチ
デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の成功には,企業全体のプロセスと戦略の再構築が不可欠である.そのためには,UXデザイン,データ駆動型意思決定,アジャイル開発を連携し,仮説検証を繰り返すアプローチが有効である.UXデザインとデータ活用の連携には,顧客課題とステークホルダー間の価値循環を整理するCVCAや,UXとデータの因果関係を明確化する因果ループ図の活用を提案する.特に因果ループ図は,プロダクトに関連する要素間の「原因と結果」の関係性を可視化し,UXデザインとデータ活用の連携を強化する.電子クーポンによる地域活性化の実践事例では,因果ループ図の作成によりプロジェクト指針やプロダクトの影響範囲を明確になり,フィードバックループを用いた継続的な改善サイクルの形成を促進できることを示している.
生成AI活用のための非構造化データの構造化技術
大日本印刷株式会社(DNP)は,企業や個人が保有する非構造化データ(PDFや画像など)を構造化データに自動変換する技術の開発を進めている.本技術では,非構造化データから文書構造とレイアウトを自動解析し, タイトル, サブタイトル, 本文, 図版画像とそれに紐づくキャプションなどの利活用可能な構造化データ(XML形式のテキストと画像)に自動変換する. 多種多様なレイアウトのドキュメントに対応し, 未知のカテゴリのドキュメントに対しても数十枚の追加学習で対応することが可能である.本技術で得られた構造化データを検索拡張生成(RAG)に用いて生成AIに読み込ませることで, 専門知識やノウハウを生成AIに効果的・効率的に追加できるようになり, 生成AIの回答精度を大きく向上することが可能になる.
本稿では,この非構造化データの自動構造化技術と, 構造化データを用いた検索拡張生成(RAG)に関する取り組みの背景,仕組み,現状の性能評価結果,今後の展望について紹介する.
企業におけるデータ民主化の定着に向けた実行施策
IOWNグローバルフォーラムの概況と今後の方向性
IOWNとはInnovative Optical and Wireless Networkの略であり,NTTのIOWN構想とは,光をベースとする革新的技術を活用した高速大容量通信や膨大な計算リソース等を提供可能な,次世代ネットワーク・情報処理基盤の構想で,2030年頃の実現を目指している.この構想の実現・普及を促進するために設立された国際的なフォーラムが「IOWNグローバルフォーラム」であり,世界各国の企業や学術団体等が参画している.そこでは,既存のインフラでは実現できない社会課題を解決したり,これからのサイバーフィジカルシステムやデジタルツインコンピューティングの時代に即した価値を提供したりするべく,研究開発が進められている.
Society 5.0を実現するためのデジタルアイデンティティの在り方
日本が目指すべき未来社会の姿として,Society 5.0が提唱されている.Society 5.0を実現するためのデジタルアイデンティティの要件は,「情報の信頼性を保ちながら分野やステークホルダーを跨いで相互に連携できること」と「デジタルアイデンティティが表現する実体自身がその情報を利活用する決定権を有していること」の二つである.これらを満たすには,サービス事業者やIDプロバイダーが生活者のデジタルアイデンティティを管理する従来の方法では問題があり,自己主権型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity)に基づく社会実装が有効である.また,自己主権型アイデンティティは,ファンコミュニティへの参加や電力業界におけるデータ活用などに応用することもできる.BIPROGYは次世代に求められるデジタルアイデンティティの在り方を提案し,顧客と共に社会課題の解決や新しい価値創出に向けて取り組んでいる.