BIPROGYグループの技術戦略Ⅰ
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2025年1月発行 Vol.44 No.3 通巻162号BIPROGYグループの技術戦略Ⅰ
近年、多くの企業が社会課題の解決に取り組む中で、デジタル技術を積極的に活用しています。課題は変化し続け、それに応えるデジタル技術も進化し続けています。BIPROGYグループは、デジタル技術を活用して企業や社会の課題解決の仕組みづくりを進める中で、進化する技術のライフサイクル全体を対象に技術ポートフォリオを再構築し、これから取り組むべき技術分野を技術戦略として定めています。本号と次号に渡り、BIPROGYグループの技術戦略に沿った最新のデジタル技術を活用する取り組みを紹介します。
大規模言語モデルを活用した設計書からのソースコード生成
大規模言語モデルを用いたソースコード生成は,開発効率の向上が期待される一方で,生成するコードの規模が大きいほど,生成コードの正確性を保証する課題が大きくなる.筆者らが開発した設計書をインプットとするコード生成ツールは,複数エージェントの協調により設計情報に基づくコード生成・エラー修正を実現し,精度と効率の向上を図った.動作検証では,自律的なエラー修正が機能する一方で,テストコード生成には不備が確認された.今後はテスト精度の向上とLLMの出力の不確実性に対応する改良を重ね,実用的な完全自動化を目指す.
進化するマネージドサービスと未来への展望
人の働き方の変容や,生成AIなどのテクノロジの進化により,人とデジタルの協働は新たなステージへと進化しつつある.一方で,そのIT環境は複雑かつ高度化の一途をたどり,少子高齢化による人口減少を筆頭とした様々な社会課題のもと,企業による内製のみでのIT戦略推進はより困難となっている.高スキル要員の必要性とその希少化という,相反する事象のもとで事業活動を支えるには,マネージドサービスの活用が不可欠である.さらに,企業の事業課題解決を支えて企業価値向上を目指すには,個別の業務課題解決型(狭義のマネージドサービス)から,テクノロジを駆使した事業課題解決型(広義のマネージドサービス)へのマネージドサービスの進化が求められる.
BIPROGYグループでは三つの視点「事業課題解決へのオファリングモデル」,「CX改革による顧客体験の最適化」,「AIによるデータドリブンな付加価値醸成」により最新のテクノロジを駆使し,広義のマネージドサービスを実現して顧客企業の社会課題への対応と企業価値向上を支援する.さらには企業間の境界を超えたマネージドサービスの連鎖により,社会価値向上を目指す.
生成AIによるIT運用高度化と生産性向上の実証研究
エネルギーマネジメントシステムにおけるリソース制御計画作成アルゴリズム
脱炭素社会に向けた取り組みが盛んになる中で,電力エネルギーを効率的に扱うエネルギーマネジメントシステム(EMS)が注目されている.EMSは電気自動車や蓄電池,太陽光発電といったエネルギーリソースを一元的に管理することで電力を効率的に使用するためのシステムである.今回,EMSを構築するためのリソース制御計画作成アルゴリズムを開発した.本アルゴリズムは,数理最適化をベースとし,インプットとなる電力需要や発電量の予測値の誤差を考慮しつつ,電力を効率的に利用できる独自の手法である.また,制御計画が必ず得られるように,リソース制御制約の段階的緩和も併用している. 本アルゴリズムを採用したEMSを構築して実証実験による評価を行い,その有効性を確認した.
本アルゴリズムは電力小売事業者だけでなく,法人事務所や工場・店舗,家庭や地域などを対象とした電力制御にも適用でき,昨今のエネルギー問題に対してアプローチできるものである.EMSの需要が高まるにつれ,本アルゴリズムの重要性も増す.
古典的近似解法との組合せによる量子アニーリングの性能改善
内閣府が2022年に発表した量子未来社会ビジョンでは,量子技術の利用者数と生産額について,2030年までの野心的な目標が示された.そのような状況の中でBIPROGY株式会社は,量子コンピュータとりわけ量子アニーリングの研究開発を積極的に進めている.量子アニーリングは業務効率化や意思決定支援等の業務に応用することができ,既に生産計画最適化や配送計画最適化などの業務に関する実証実験が行われているからである.しかし現状の量子アニーリングでは精度の高い解を安定的に得るのは難しいため,技術面での対応策が求められる.
BIPROGY株式会社はこの課題を解決するために,古典技術を用いた近似解法と量子アニーリングとのハイブリッド技術を開発した.このハイブリッド技術は,大量のデータを扱う問題であっても,高い性能を示した.現在はこのハイブリッド技術に関する共通ライブラリを作成しており,将来的にはコミュニティ活動を通して,多くの開発者に広く展開していくことを図っている.
自由エネルギーに基づく強化学習
大規模言語モデル(LLM) の進展により, モデルの大きさ, データ量, 学習時の計算量からスケーリングされる形で, 世界にある情報を確率分布としてどの程度精密に学習できるかが明らかにされるとともに, 大規模な学習済みモデルを利用したアプリケーションからもその有用性が強く示されている. 今後は, 学習された基盤モデルをもとに外部とのインタラクションを行い具体的なタスクを実行するエージェントへの発展が期待されている. 外部の環境との相互作用を通じた試行錯誤に基づく学習は, 強化学習とよばれ, 教師信号が明示的に与えられず, 勝敗や成功が報酬として得られるタスクで利用され, 多くの成功を収めている. しかしながら, 強化学習は, 学習に頑健性がないこと, ハイパーパラメータの細かいチューニングを要する新しいタスクへの適用は容易ではないこと, 統一的な視点に基づいた設計法が確立されておらずそれぞれの問題に特有の手法が要ることなど, 残された課題も多い. 本稿では, 学習システムの統一的な理解を目指して, 確率分布の学習で基本的な量をなす自由エネルギーを指標とした強化学習の定式化を提案する. 自由エネルギーに基づく定式化を通じて, 方策パラメータのエントロピーによる頑健化と, 報酬の分散による探索と活用の適切なバランスが導出される. さらに, 設定した目的関数を正規分布で近似する場合の局所的な最適化アルゴリズムを与え, 解析結果を他の手法と比較し, 提案手法との関係性を明らかにする. 得られた結果は, 統一的な視点からの学習システムの設計に対し,有用な知見を与えるものであると考える.