一般号
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2014年12月発行 Vol.34 No.3 通巻122号一般号
本号では,民生用ビデオカメラで写した物体の動きを三次元でトラッキングするシステム,発注者と受注者を合意形成に導く要件定義の進め方,オープン勘定系システムBankVisionの基盤環境の進化,健診データを長期に亘って採取するゲノムコホート研究の基盤構築,高速なデータ入出力処理を実現するInfiniBandについての技術論文を掲載しています。
ビデオ映像内対象物体の三次元トラッキングシステム
日本ユニシスでは,単眼カメラで撮影したビデオ映像に映る対象物体の三次元空間内の動作をトラッキングするプロトタイプシステムを構築した.物体を三次元トラッキングする方法として,特別な計測装置を用いたモーションキャプチャーがよく知られている.本システムは,対象物体の三次元CADデータを用いることで,市販の単眼カメラで撮影した映像から対象物体の三次元トラッキングを行う.そのため,特別な計測装置なしで三次元トラッキングシステムを構築することができる. 本システムを構築するにあたり,三次元CADデータを利用して二次元画像空間と三次元空間を結びつける新たなアルゴリズムを開発した.本システムは,現物と同じ形状のCADデータを用いて二次元の情報から三次元の実世界の情報を得られる点で,これまでにない新たなシステムである.
マイルストーン計画と断面評価による段階的な要件定義の進め方
要件定義に起因する問題は、システム開発全体に影響を及ぼす.要件定義が終わらない,要件が膨れ上がってしまう,主要な要件の評価が不十分,といった問題は,コストオーバーの原因と強く関係する.要件定義工程の主要な活動は,スコープマネジメントである.システム化要件のベースラインを確立する役割を担う. 本論は,ベースラインの確立に向けたスコープマネジメントの実施方法を、プロセスと評価の観点から示す.具体的には,マイルストーン計画と進捗の断面を捉える評価方法によって段階的に要件を固めながら,内容の実現性と全体として要件の整合性に着目して進め,リスクの可視化と評価を行うことを提唱する.
BankVisionを支える基盤環境のライフサイクル管理と新技術適用の取り組み
オープン勘定系システム「BankVision」は2007年5月の初稼働から7年を越え,その採用銀行の数は,稼働予定を含めると10行に達している.BankVisionのシステム基盤環境は,時代とともにさまざまな技術をとりこみながら進化を続けている.基盤環境の中心であるオペレーティングシステムは,「Windows Server 2003」から「Windows Server 2008」,そして「Windows Server 2012」へ,データベースマネージメントシステムは,「SQL Server 2005」から「SQL Server 2008」,「SQL Server 2012」へ,稼働予定時期を考慮しながら,順次,新バージョンを採用している.また,データベースマネージメントシステムの冗長化対策としてこれまで利用してきた「データベースミラーリング」機能は,「SQL Server 2012」の新機能かつ後継機能である「AlwaysOn 可用性グループ」に置き換え,その機能を活用した新たなサービスを企画検討中である.更に,近年,急速に技術的な進化を遂げている仮想化技術として,サーバ仮想化(Virtage,Hyper-V),ストレージ仮想化(Hitachi Dynamic Provisioning),仮想テープ装置(DXi6701)などを積極的に採用することにより,提供サービスの向上や運用改善に成功している.
大規模ゲノム疫学研究の統合情報基盤の構築事例
本稿では,長浜市役所と京都大学医学研究科附属ゲノム医学センターが連携して実施する「市民の健康づくりの推進」と「医学の発展への貢献」を掲げた全国初の1万人規模の大規模ゲノムコホート事業である「ながはま0次予防コホート事業」に関するシステム開発プロジェクトにおける大規模ゲノム疫学研究の統合情報基盤の構築事例を紹介する. 大規模ゲノム疫学研究の統合情報基盤は, 京都大学医学研究科附属ゲノム医学センターにおける先制医療の実現に向けた疾患発症追跡のための研究基盤として開発し, 2012年より運用を開始した.本基盤は,将来の全国展開を視野に入れ, 人的ミスがなくセキュアにデータ・試料を収集できるような汎用性の高いシステムを構築することが求められた.これらの要件を満たすために,二段階匿名化/秘密分散法,メタデータ管理,自動生成機能を開発した.
InfiniBandネットワークのIAサーバにおける実用性の検証
コンピュータを使った処理は,ビッグデータを扱うようになり大量のデータを高速に処理することが求められてきている.サーバについては,CPUの処理性能がムーアの法則に倣って向上している一方,IOの速度がボトルネックになる傾向がある.これらを解決する手段としてInfiniBandがある.InfiniBandは長らくHPC(High Performance Computing)専用と考えられてきたが,IA(Intel Architecture)サーバでも,ハードウェアの進化とWindows2012のリリースにより,商用環境に取り入れる条件が整った. 本稿では、IAサーバにおけるInfiniBandのネットワーク技術に焦点をあてる.最新のIAサーバを用意して,理論値に対してどの程度の性能が実測されるか確認するとともに,10Gbイーサネットとも比較し,InfiniBandの優位性を確認した.可用性の実機検証も行い,注意点を明確にすることで,最適な実装方法を確認することができた.InfiniBandの現状を明らかにし,IAサーバ環境での実用性を検証した結果を報告する.