新世紀を迎えたシステム開発技術 — LUCINAを中心として
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2001年3月発行 Vol. No. 通巻68号新世紀を迎えたシステム開発技術 — LUCINAを中心として
情報システム開発の新たなビジネス・モデルを実現する
ビジネスと情報技術が融合するEビジネス時代における情報システム開発者はサービス志向のビジネス・モデルを採用する.サービス志向の観点からすれば,ビジネスを実行していく中で得られた顧客の経験に基づいて情報システムは進化する.そのため,企画・開発・保守・運用というプロセスを一つのものとして循環させる必要がある. そこで,このビジネス・モデルを実行するには,体系的再利用組織を発展させた組織戦略が必要と考え,推進している.
今後のシステム開発技術の展望
ソフトウェアの特質は複雑性と柔軟性であると言われる.プロダクトとプロセスにおける過去の開発技術は,これらの特質に対応して発展してきた.その技術の中で,1)アプリケーション設計とソフトウェア・アーキテクチャを分離するアーキテクチャの基本型,2)アーキテクチャ中心の開発プロセス・フレームワークが主要な技術である. 現在のシステム開発のフレームは,コンピュータのネットワーク化と分散オブジェクト技術であり,その鍵となるコンセプトはサービス志向である.このコンセプトを実現するには,現在の開発技術にはさまざまな技術的課題がある. システム開発方法LUCINAのコンセプトを中心に,本特集号の論文を紹介し,システム開発技術の将来を展望する.
LUCINA for Java/WebLogic Serverの構造
LUCINAにはいくつかのプロファイルがあり,その中の「Web APサーバプロファイル」として開発されたのが,LUCINA for Java/WebLogic Serverである.この,WebLogic ServerとはJ2EEベースのWeb APを構築するための米国BEA社のミドルウェア製品である. 本稿では,Web APサーバの歴史と将来像に触れ,LUCINA for Java/WebLogic Serverの開発に先立ってなされた決定事項とその開発方法の概要について記述する.さらに,現在問題になっている点について解説する.
リース業パッケージ開発におけるHYPERPRODUCE IIの適用
近年のPCサーバの急速な発展に伴い,オープンな環境でのシステム構築が強く望まれている. リース業パッケージにおいても同様であり,Windows環境下で稼働するLeaseCreationを開発した.このような中で開発環境として何を使用していくかということは,生産性はもとより,今までオフィスサーバの開発に従事してきたSE(System Engineer)やプログラマをどのように方向づけるかという意味で大変大きな課題である. 当初はもっとも一般的でSEやプログラマの人口も多いと思われるVisual Basicを採用するつもりであったが,最終的にはHYPERPRODUCE IIを採用した結果,生産性の点で他のプロジェクトと比較して作成コストが約半分という効果が得られた. 今後は,客先展開におけるカスタマイズや保守の生産性を如何に効率よく行なうかが課題となる. 本稿では,このプロジェクトにおいてVisual BasicではなくHYPERPRODUCE IIを選択するに至った経緯と実際に使った結果について述べる.
J2EETMブループリンツにおける多層アプリケーションの設計ガイドライン
J2EETMは,多層アプリケーションのために豊富なAPIを提供しているが,大規模なシステムを短期間で開発するには,適切な設計のガイドラインが必要になってきている.ここでは,J2EEブループリンツが推奨しているいくつかのアーキテクチャやデザインパターンなどについて考察し,その有効性を検証する.
オブジェクト指向技術の実践適用
オブジェクト指向技術はソフトウエアの生産技術として現在最も有効な技術である. オブジェクト指向がまだまだ特別な情報技術であると思われてはいるが,オブジェクト指向という考え方の本質は非常に単純であり,実世界をそのままオブジェクトという概念でモデル表現し,それをそのままコンピュータ世界に写像表現することである. オブジェクト指向技術は,真の意味で,ソフトウエア部品によってアプリケーションを構築する部品による製造技術だと言える. 本稿では,オブジェクト指向技術の本質と技術導入するポイント,円滑に導入するための情報モデルアプローチを紹介する.
新技術者像と教育
インターネットの普及は,ビジネス形態を大きく変化させた.Eビジネスと称されるこの新しいビジネスは,顧客が置かれているビジネスのスピードが速いため,システム構築のスピードアップが技術者に要求されている.この解決策の一つは,LUCINAに代表される開発方法論の適用である.また,現在の組織形態をプロジェクトごとの流動的な組織にシフトすることも重要である.しかし,実際にシステムを構築するのは技術者なので,新しいビジネス形態に対応した技術者を育成することこそが,最も重要なことである.
ラショナル統一プロセス −ソフトウェア開発の ベストプラクティス
ソフトウェア開発の道しるべとしてのソフトウェア開発プロセスが,近年世界的に研究されている.数ある開発プロセスの中でも,開発ライフサイクルの管理,ベストプラクティスの効果的な適用,カスタマイズの容易さから,RUP(Rational Unified Process)が注目されている. RUPは実際の開発で有効だった経験を反映しつつ成長した実際的なプロセスである.本稿では,RUPの歴史的背景から,RUPの概要,適用事例を紹介し,現在のRUPが抱える課題および将来動向について述べる.
チーム開発支援モデルとTeamFactory
チーム開発支援モデルはLUCINAによる開発を支援する方法を定義し,開発支援チーム主導の下でツールによる支援環境を構築し,成果物の履歴,構成情報,依存性情報を管理することで,無駄な手戻りを防ぎ,工程間の引き継ぎや変更発生時の適切な対応を可能にする.そして,要求追跡や変更要求対応などのプロセスを標準化し,プロセスと成果物を関連付けることで,要求や変更要求への漏れ・誤りのない対応と,成果物の品質維持を可能にする. TeamFactoryは,大規模システム開発の支援を目指した構成管理ツールであり,最大の特徴はライン管理によるチーム開発のサポートにある.今回,LUCINAによる開発の支援ツールとして実際にTeamFactoryを適用し,チーム開発支援モデルのツールとしての有効性を評価した. チーム開発支援モデルは,プロジェクトによって異なることが多かった開発の支援方法について,具体的で一貫性のある支援体制の構築に貢献できるだろうし,TeamFactoryは,チーム開発を前提とした構成管理作業を強力に支援でき,チーム開発支援モデルに適用するツールとして十分な素質を持っている.
プロトタイプ手法を支えるLUCINA支援ツール
本稿では,LUCINA開発技法を支援するツールとその適用方法について紹介する. プロトタイプ支援ツールは,LUCINAにおける業務分析フェーズのプロトタイプの作成に伴うTUXEDO環境およびSTDL環境の構築を劇的に軽減するツールである.またシステム構築フェーズにおいても,インタフェース仕様記述ができた段階で実アプリケーションの各コンポーネントに相当する仮コンポーネントおよびそれらの実行環境を自動的に作り出すことができる.実コンポーネントの単体テストが終了するたびに,仮コンポーネントと置き換えていくことで,アプリケーションを完成させることができる. 単体テスト支援ツールは,TUXEDOおよびSTDL環境のない環境でコンポーネントの単体テストを可能にする.中央の開発環境には,結合テスト用のTUXEDO管理下のアプリケーションを置き,周辺の開発環境ではTUXEDOを必要としない単体テスト環境を必要なだけ作るという方法で,開発作業の並行性を高め,生産性を向上することができる.
ASPサービス基盤「Kiban@asaban」
既ビジネスからEビジネスへのトランスフォーメーション,インターネットのユーティリティ化,ソフトウェア・コンポーネント技術の定着に伴い,インターネットを基盤にしたBtoBシステム,BtoCシステムが急速に拡大している.2000年8月に日本ユニシスが販売を開始したKiban@asabanは,インターネットに大容量の回線で接続されたデータセンタにアプリケーションを配備し,汎用的なアーキテクチャのもとで,アプリケーション・プログラムをネットワーク経由で提供するためのASPサービス基盤である.本稿では,ASP/iDCから始まりAIP/xSPが登場してきた経緯と背景,Kiban@asabanの実装および適用評価,ASP/iDCの今後の課題について述べる.
情報セキュリティ対策検討のために
情報技術が社会インフラとなり,すべての社会活動がインターネットなどのオープンなネットワークを介して行われることで効率性・利便性が増している.一方,不正な手段,悪意を持ってネットワークからコンピュータシステムに侵入し,データを読む,改ざんする,破壊するといったような新たな危機に直面している.情報セキュリティ対策は情報資産を守るためにあらゆる組織の最重要課題のひとつとなっている.本稿では,情報セキュリティを確保するための技術要素と要求事項を整理し,各組織がセキュリティ対策を策定/実施するための指針を示すとともに最新の国内外セキュリティ技術動向の一部を紹介するものである.
顧客分析とデータマイニングの動向
CRM(Customer Relationship Management)などの新しいマーケティングの考え方の出現により,一人ひとりの顧客の特性を識別する必要が生じ,データマイニングが注目されている. データマイニングは,大量データから規則性や関連性などを自動的に抽出する手法である.本稿では,マーケティングにおける顧客分析の要件を整理し,この分野におけるデータマイニング・ソフトウェアの必要な機能を考える. 今後インターネットやコールセンターの普及により,リアルタイムでデータマイニングを行うオンラインマイニングや文字データを分析する文書マイニングも必要になってきている.これらの新しい技術についても紹介する.
データウェアハウスのモデリング
データウェアハウスで重要なことは,データをビジネスの視点で見ることであり,本稿はそのデータ特性と分析モデルの重要性を明らかにする.また,データウェアハウスは,統合蓄積主体のデータと利用主体のデータの2種から成り立っていることと,両者に適用される技術の違いを示し,それらを合わせてデータウェアハウスが構成されていることを明らかにする.さらにデータウェアハウスに特化したディメンジョナル・モデルについて解説し,データウェアハウスの重要な課題のひとつである時系列データにおける属性値の変化に対するディメンジョナル・モデルの対応と限界を示す.最後にディメンジョナル・モデルの適用に対する筆者の姿勢と,今後のデータウェアハウスのさらなる活用およびデータ・モデリングの重要性と期待を示す.