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IWMS/FMソリューション「ARCHIBUS」コラム

スマートシティによって生じる住民や都市機能への影響とは?

2023年1月16日

都市部において、現在注目を集めているスマートシティ構想。
人口増加や高齢化・インフラの老朽化・自然災害への備えなど、都市部では生活における課題が多くありますが、それらを解決する策となると考えられているのがスマートシティです。
そして今、世界各国でスマートシティの実現に向けての取り組みが進められています。
しかし、そもそもスマートシティとはどういったものなのか。
実現すれば、本当に生活がよくなるのか。
こうした疑問を持つ人は多いでしょう。
そこで今回は、スマートシティがどういったものなのか、スマートシティを実現することで人や生活に与えると考えられている影響などについて解説します。

スマートシティとは?スーパーシティとの違い

スマートシティとは、IoTやAIなどの最先端技術で、エネルギー供給や交通インフラの効率化で生活やサービスの質を向上させた、住みやすい都市のことを指します。
官民が収集したデータを分析・活用し、住民の暮らしやすい街を実現している都市は、スマートシティと呼んでいいでしょう。
都市部への人口集中や高齢化、インフラの老朽化や交通渋滞、エネルギーの問題など、都市には課題が山積しており、世界中で同じことが起きています。
そこで、エネルギー供給やインフラの効率化などが含まれるスマートシティ構想は、都市のさまざまな問題解決に向けた取り組みの一環として世界中で進められています。
スマートシティと似たもので「スーパーシティ」という構想もあります。
スマートシティが先端技術を活用することで生活を効率化し都市問題の解決を目指すものとすれば、スーパーシティとは生活に関わるあらゆる分野のデータを連携させ、都市の機能を最適化し、住民の暮らしの向上を図るものです。
さらに、先端技術を活用する際に障害となる規制を、地域限定で緩和できるよう法整備されているのも、スーパーシティの特長といえます。

スマートシティとは?スーパーシティとの違い

スマートシティによって生じる住民や都市機能へのよい影響

スマートシティが住みやすい都市の実現を目指していることは先に述べたとおりですが、では具体的に生活や都市機能へどのような影響があるのでしょうか。
まずは、想定されるよい影響から見ていきましょう。6つの観点から解説します。

防犯体制が強固になる

スマートシティにおいては、AIと防犯カメラによる防犯体制が構築されます。顔認証や音声認識技術、行動分析などが活用されるでしょう。
防犯カメラに映った映像から、暴漢に襲われている人や集団を検知したり、顔認識で要注意人物の割り出し、音声認識で悲鳴などを検知できるようになります。
素早く異常を察知して音声警告や警察官の派遣につなげることで、犯罪への抑止力となると考えられています。

交通渋滞が緩和される

都市部では人口が増加し続けており、その結果、交通渋滞が頻発するようになっています。この交通渋滞もスマートシティで緩和できるというのです。
まず、車や道路にセンサーを設置し、交通量や事故などのリアルタイムデータを収集します。そしてAIが分析し、信号を効率的に制御して渋滞の発生を防げるようになる、ということです。
また、パトカーや救急車が通る際にも信号を操作できるようになり、事故現場や医療機関への到着時間を短縮することもできるでしょう。

高齢者のケアが行いやすくなる

高齢者をケアするために、ドローンによる訪問や、ネットを使った遠隔の見守りが可能となります。
高齢者の自宅にある家電製品にセンサーを組み込むことで、一定時間動作がない、あるいは通常と異なる動作を検知したら、介護・医療機関に連絡を送るなど、高齢者をケアできる体制が整えられます。
さらに、センサーが収集した情報はAIに分析され、高齢者の日常行動から認知症などの兆候を予測できるようになることも期待されています。
高齢化社会の日本では単身で生活する高齢者も増加傾向で、急病時の通報や搬送の遅れ、孤独死といったことが近年の課題となっており、介護士などの不足も問題となっています。
スマートシティが実現できれば、高齢者の命や危険を救えることにもつながりそうです。

エネルギーが効率的に供給される

スマートシティでは、各家庭で屋根にソーラーパネルが設置され、AIが使用状況から無駄のないマネジメントを行ってくれるようになります。余った電力は買い取られ、消費電力の多い地区に送られるようにもなるでしょう。
エネルギー消費を効率化することは家庭の経済的にもメリットがありますが、化石燃料由来の発電量を抑えることになり、CO2削減にもつながります。
燃焼時にCO2を排出する化石燃料からの脱却は世界規模で推進されており、日本も例外ではありません。
また、エネルギー資源の少ない日本は海外からの輸入に頼っているため、限られたエネルギーを効率的に分配できる仕組みはメリットが大きいといえるでしょう。

災害対策が効率的に構築される

AIを活用することで、エリアごとに降雨予測や効率的な避難計画の立案ができるようになります。
さらに、センサーで分断・水没した道路や河川水位の検知、ネットを使用した避難施設間での連携や食糧配給など、さまざまな災害に対して、対策がより効率的に構築されることでしょう。
近年、突然の豪雨や台風などによる被害が全国各地で頻発している日本ですが、自然災害への対策も迅速に立てられるようになるのです。

感染症の蔓延防止システムの発展が期待できる

建物や公共交通機関にセンサーを設置し、体温検知などのシステムも連動させることで、より詳細な感染経路の特定が可能となるでしょう。
現在でもアプリによる接触確認や濃厚接触者への検査促進なども進められていますが、より一層、ウイルスの蔓延を防止する対策が期待できます。

スマートシティによって生じる住民や都市機能への悪い影響

続いては、想定される悪い影響について見ていきます。こちらも同様に6つの観点からです。

ネットワークに大きく左右される

IoTなど、すべてがつながっているスマートシティにおいては、ネットワーク機器の故障やトラブルが、大規模な都市機能のマヒを引き起こすことも考えられています。
現状でも都心部では、停電などによる都市機能のマヒはすでに起こっています。大きな都市ほど設備やインフラが複雑に絡みあっており、そのぶん復旧まで時間を要することになるでしょう。
対策としては、ネットワークに関するトラブルの兆候を検知し、未然に防ぐ体制を整えることです。
また、緊急事態に備えてネットに依存せずとも最低限の生活を維持できるよう日頃から準備をしておくことが大切といえます。

莫大なコストが発生する

スマートシティの構築には、新しい技術やテクノロジーが活用され、社会を大きく変えていくものです。そのため、当然ですが実現には莫大なコストがかかってきます。
まず、既存のインフラと新たなテクノロジー、たとえばIoTの技術などを融合させなければなりません。そのための技術開発、設備の整備や運用、維持にコストがかかってくるのです。
コストがかかりすぎると反発する勢力や住民も出てくるでしょう。コストについては慎重に進め、理解と賛同が得られるようにしなければなりません。

常に監視された環境に置かれる

前述したように、街中にセンサーが張り巡らされるだけでなく、ネット接続で生活に関するあらゆる情報が収集されます。そのため、一部ではプライバシーの侵害を不安視する声も上がっているのが事実です。
海外の事例ですが、カナダのスマートシティ構想である「Sidewalk Toronto」では、生活インフラの使用量からゴミの排出量、さらに人の移動に関してのデータまで収集されています。
中国では、監視カメラとAIによるスピード違反の自動通報装置なども開発されているといいます。
安心と安全、効率化のためになる一方で、一歩間違えると住民のプライバシーが侵害されかねません。プライバシーもしっかり守られるスマートシティ構想の実現が望まれています。

今以上にハッキング対策が必要になる

スマートシティでは設備や機器が常にネットに接続されている状態となるため、ハッキング対策がこれまで以上に必要となるのはいうまでもありません。
海外のケースですが、エネルギーラインがハッキング攻撃を受けてデータをロックされ、解除に身代金を要求されたというケースも報告されています。
発電所やダム施設といったライフラインに直結する施設が仮にハッキングされたとなると、住民の生活・安全に直接的なダメージとなります。
ネットワークトラブル同様、ハッキング対策にも注意を払う必要があります。

高齢者には受け入れられない可能性がある

新しい仕組みやシステムが便利であると頭で理解できても、これまでの生活習慣を変えることが難しいと高齢者から拒否される可能性も否定できません。
心理的なハードルで受け入れを拒否されるケースも考えられるため、できるだけわかりやすい説明や仕組みづくり、実現できた時のイメージ共有などが、事前に必要といえるでしょう。

一部の企業が権力を独占する可能性がある

住民一人ひとりと紐づくデータを一部の企業が独占することで、大きな権力を握る可能性も考えられています。
ネット上での検索や購入といった行動がすべて履歴として記録され、個人の嗜好やニーズを割り出すのに利用されるでしょう。
プラットフォームを持っているような強い立場にある一企業が、これらのデータを独占してしまうと、あとから新規の企業が参入するのは難しくなります。
独占が起き始めると、健全な企業間競争が起きにくくなり、よりよい経済発展を妨げることとなってしまいかねません。

スマートシティを実現するために必要な技術

ここまで、スマートシティが実現すると得られるよい影響と悪い影響について解説しました。スマートシティが実現すれば、私たちの生活がより便利に、快適になることは間違いありません。
では、スマートシティを実現するために必要な技術には、どのようなものがあるのでしょうか。
大きくは5つの技術が必要といわれており、「センシング技術」「自動化技術」「通信技術」「データ技術」「可視化技術」となります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。

センシング技術

センシング技術は、専用のセンサーを活用して事象や状態、つまりデータを計測し数値化する技術のことをいいます。
気温を調べるための温度計を例に説明しましょう。
温度計は、大気の温度を感知、計測し、数値化してくれます。数値化されることで「今この場所の気温は20℃」であると認識できます。
同じように、専用のセンシング技術を使うことで、湿度や気圧、音量、明るさといった、状態を数値として捉えられるようになるということです。
また、衝撃や動きなどもセンシング技術で数値化が可能となります。

自動化技術

自動化技術により、自動化されると、当然ながら人の手間と時間がかからないことで省人化が期待できます。
さらに、事故の可能性があるような危険な作業にも取り組めるようになり、人が行うよりも効率よく、かつスピーディーに行えるようになります。
自動化技術の中では、自動運転技術が注目されており、実用化の段階まで来ているといわれています。
しかし、まだ完全無人化までは至っていないケースがほとんどで、完全に実用化できるまでのハードルは高いといえるでしょう。
安全性、社会の許容、コストなどの面をクリアにすることが求められています。

自動化技術

通信技術

4Gや5Gといったワードが浸透してきましたが、通信技術とは、あらゆるセンサーで取得したデータを送信したり、センサーや機器に対する制御情報を伝達したりするものです。
ちなみに、今までの通信技術よりスペックが高い5Gが、より普及すれば、これまで以上に送受信できるデータ量が増えるだけでなく、送受信の速度も上がります。
スマートシティではIoT化することで、あらゆるモノがインターネットに接続され、相互通信できる状態となります。つまり、この通信技術なしでは何も起こりません。

データ技術

センサーなどで取得したデータの数々は、それ単体ではあまり使い道がありません。そこで必要となるのが、データを活用するための技術。それが、データ技術なのです。
そして、ビッグデータの蓄積、分析、解析のプロセスを人の頭脳ではなく機械で行うのが、いわゆる人工知能(AI)です。
AIは大量のデータから、プログラムされたロジックでデータを引き出し組み合わせる、あるいは再蓄積する、といったことを行ってくれます。
このデータ技術プロセスはデータサイエンスと呼ばれる領域であり、最近では専門とするデータサイエンティストという職業が確立されているほど普及してきました。
データ技術の難易度は高いですが、スマートシティ構想のような大規模データを取り扱う場合には必ず必要となります。

可視化技術

活用できるデータが完成したら、そのデータを整えて可視化しなければいけません。
データは、いずれも単なる数値や事象の形でしかないため、データを活用する人が視覚的に理解し、認識しやすいようにする必要があるのです。
具体例をあげてみましょう。たとえば、単純に並んだ数字列よりも、数値を元に作成したグラフの方が、数値のもつ意味を感覚的に捉えやすくなります。
可視化技術における最先端は、VR(VirtualReality、仮想現実)、MR(MixedReality、複合現実)などです。
仮想空間や、現実空間に立体的なデジタル映像を組み合わせたりすることで、あたかもその空間に入り込んでいるかのような体験ができます。

まとめ

スマートシティとは、最先端の技術を駆使し、エネルギーの供給や交通インフラなどを効率化させ、住みやすい都市とする構想です。
構想が実現できれば、防犯や防災への対応がより強固となり、交通渋滞の緩和や高齢者への迅速なケア、エネルギーの効率的な利用が可能となるなど、人にも環境にもメリットが生まれるでしょう。
一方で、ネットワーク依存への危険性や、莫大なコスト面の問題、ハッキングのリスク、プライバシー侵害への観点など、クリアすべきことも山積しているのも事実です。
リスクヘッジや仕組みづくりの部分はこれからより一層考えなければならないことです。
しっかりとした議論を重ね、最先端のテクノロジーを有効に活用していくことが重要といえるでしょう。

まとめ

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