事例紹介
刻々と変化する状況をリアルタイムで全社共有。「災害ネット」を活用して高度な防災体制を構築
株式会社アット東京 様
ソリューション、製品・サービス
2019年11月11日
"24時間365日稼働"が当たり前のデータセンター事業にとって、災害対策は重要な生命線の一つだ。より堅固な災害対策をめざして、アット東京様では防災訓練の方法や、訓練時の情報管理のあり方についてドラスティックな改革に取り組んだ。
株式会社アット東京
執行役員兼BPR企画部長
山家 昇氏
株式会社アット東京
経営企画本部
経営管理部担当部長
阿部 伸太郎氏
SUMMARY
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情報共有ツールとして情報一元化に成功災害および訓練時に各部門でホワイトボードなどを使って管理していた情報を集約し、情報共有ツールとすることで情報の一元化に成功
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刻々と変化する状況をリアルタイムでの全社共有を実現シンプルでストレスの無い操作感で、刻々と状況が変化する「状況付与型」の防災訓練においても、リアルタイムでの全社情報共有を実現
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事後の状況分析により効果的な改善活動が可能情報共有と同時に時系列情報を記録することで、事後の詳細かつ客観的な状況分析や原因究明が可能に
USER PROFILE
設立:2000年6月26日
資本金:133億7850万円
本社所在地:東京都江東区豊洲5-6-36 ヒューリック豊洲プライムスクエア3階
事業内容:情報通信システムを一括して集中管理するデータセンター事業 (届出電気通信事業者)
本事例に掲載された情報は、取材時点のものであり、変更されている可能性があります。なお、事例の掲載内容はお客様にご了解いただいておりますが、システムの機密事項に言及するような内容については、当社では、ご質問をお受けできませんのでご了解ください。
クロノロジー型危機管理情報共有システム「災害ネット」
災害時などに行われている「クロノロジー(時系列)で記録する」という行為をそのままシステム化することで、今何が起きているのかをリアルタイムで把握できる「災害ネット」。PCやスマートフォンから、時系列に沿って入力した情報をサーバーで一元化し、リアルタイムで共有することで、即座に状況が把握できるようになる。これまでは、電話やメールなどさまざまな異なった方法で報告されてくる大量の情報の整理が困難で、 伝達内容に誤解が生じたり、意思決定が遅れたりするリスクがあった。災害ネットを活用することで、大量かつ最新の情報を、時系列でまとめたかたちで、自宅や外出先などからも確認できるため、情報の見落としが発生せず、迅速かつ適切な意思決定を下すことができる。
極めて高い信頼性とコネクティビティで堅調に売上を拡大
2000年6月、東京電力の新規事業として創業した株式会社アット東京(以下、アット東京)様のデータセンター事業を支えるのは、極めて信頼性の高いインフラ設計・構築および運用技術による安心な環境だ。例えば中央センター(CC1)を例にとると、過去に発電所が稼働していた場所など強固な地盤上に建設。使用する電力は、50万ボルト級の変電所からの直結線を経由して、6万6000ボルトで受電している。もちろん、さまざまな災害対策も万全だ。
「データセンターはBCP(事業継続)ありきで成立する事業です。従って、各センターは、地震やそれに伴う津波、高潮などの水害、さらに液状化に対する対策など、あらゆる自然災害に対応しています。また、昨今脅威が増してきた首都圏直撃の大型台風に対して、建物構造上最大瞬間風速60メートル程度まで問題ありません」と、執行役員兼BPR企画部長 山家昇氏は同社の防災対策を説明する。
データセンター業界はコモディティ化が進みつつある業界でもある。そのような状況で堅調に売上を伸ばしてきたアット東京様の強みの1つが「コネクティビティ」だ。AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)を始めとする各社クラウドとの"直結回線"を開設することで、センター内のサーバーとクラウドとのコネクティビティを強化。お客様企業のクラウド化を効率化させることに成功してきた。
導入の背景と狙い 刻々と変化する状況に対応可能な情報共有ツールが必要
アット東京様では毎年、データセンターを含めて全社規模で防災訓練を行っている。ここ数年は、事前に決められたシナリオ通りに進めていく、いわゆる「シナリオ型」ではなく、設定のみ事前に公開し、シナリオはブラインドにしておき当日リアルタイムで条件を与えられていく「状況付与型」の訓練を実施している。事前に何を準備すべきか、また、当日事務局から随時付与される事象に対してどう行動すべきかの判断を瞬時に、各部門の責任で行う。例えば訓練当日に順次「隣のビルで火災が発生しました!」、「1番エレベーターに人が閉じ込められています!」など、事務局から次々と新たな事象を与えられてシナリオが進んでいく。
「災害時の対応を行う上では情報共有が非常に大切です。これまでは、ファイルサーバー上にあるファイルを各自更新して情報を入力したり、既存のグループウエアの掲示板機能をカスタマイズしたりして情報共有を行ってきました。毎年さまざまな工夫を凝らしてやってきたのですが、なかなかフィットする情報共有ツールが見つかりませんでした。特に情報の時系列を正確に管理しようとすると、手作業で発生時刻などを入力しなければならなくなり、使い勝手が悪くなってしまいます。使い勝手が悪くなると皆がシステムに情報を入力しなくなる。そうすると今後はまたホワイトボードに情報を書き出すことになり、事務局に欲しい情報がリアルタイムで入ってこなくなります。結局、テレビ会議で確認したい部署を呼び出して、相手は後ろにあるホワイトボードを見ながら状況を説明する、というような状況になってしまいます」と、山家氏は防災訓練時の課題を説明する。
もちろんリアルタイムで正確な情報共有ができなければ、刻々と状況が変化しその都度現場での判断が必要な状況付与型の訓練を効果的かつスムーズに実施することは難しい。
選定理由 リアルタイムでの情報共有が可能な「災害ネット」に感動
そのような中、3年ほど前に訪れた展示会で出会ったのが、日本ユニシスが出展していた「災害ネット」だ。
「『クロノロジー型の情報管理ツール』として展示ブースで紹介されていました。ひと目見てこれは非常に良いな、と感じました。言うなればホワイトボードがそのまま電子化されているようなもの。それにレスポンスがものすごく早い。
従来の災害情報システムと言えば、多彩な機能を搭載してはいるものの、実際にはその1割も使わないことがほとんどだと聞いたことがあります。実際に頻繁に使われるのは掲示板機能ぐらいだそうですね。災害ネットは正にその掲示板的なインターフェースを活用した情報共有機能に特化したシステムでした。これを使えばリアルタイムでスムーズな情報共有ができるのではと、やや感動しながら見ていたのを覚えています」と、山家氏は災害ネットと出会った状況を振り返る。
しかし、災害ネットの運用主管部門責任者、経営企画本部経営管理部担当部長 阿部伸太郎氏は、山家氏と、まったく別のルートで災害ネットを知ることになる。
「ヤマダ電機が主催するBCPセミナーにお邪魔した時に、災害ネットをご紹介いただきました。当時は機能的には少しシンプル過ぎるかなと思ったぐらいなのですが、その場で使い方が分かるぐらいのシンプルな画面設計および操作性だったというのが第一印象です。それぐらいシンプルで小回りが利くシステムの方が適しているかもしれない、と当時は感じました。また、実際にシステムを運用する立場から言えば、導入後の運用工数にも配慮する必要があります。重厚長大で多機能なシステムでは、マスターメンテナンスなどを始め、さまざまな運用作業がそれだけ多く発生します。機能がシンプルなほど運用作業も容易になると考えられますので、このシステムなら導入しても良いのではないか、当社の使い方に合うのではないか、と感じました」と、阿部氏は当時の印象を語る。
アット東京様が求める機能や規模感、そしてコスト感がぴったりマッチングしたのが災害ネットだった、と言えるだろう。
導入効果 予想外に展開する状況下でも迅速かつスムーズな情報共有を実現
それでは実際にアット東京様ではどのように災害ネットが使われているのだろうか。2017年の防災訓練時に一旦テスト導入して有用性と課題点を検証。それらを整理したうえで、翌2018年の訓練から正式導入に踏み切った。
「まず訓練の1ヶ月前辺りから災害ネットに全社員が、自由に触れるインシデントを設けます。防災訓練に先立ち、操作方法を確認すると共に、入力フォーマットなどの検証や入力/運用ルールなどの調整などを行い、本番の訓練に臨みます」と、阿部氏は訓練開始までの流れを説明します。
ちょうど災害ネット導入時期と合わせて、前述の状況付与型の訓練も始まった。実際の災害を模しているために、訓練中に何が発生するか参加者は事前には分からない。従って迅速かつ正確な情報共有が一層重要になる。「人が閉じ込められた」など事象が発生すると現場ではまず災害ネットに入力する。そして本部に電話を掛けようとすると今度は事務局から「電話が不通です」と入力される。このようにリアルタイムに刻々と事態が進行・変化していくため、現実さながらの緊張感で訓練が進むことになる。
「テスト導入した2017年はまだ災害ネットに慣れていないところもあり、ホワイトボードなどを一部併用していました。しかし本格導入した2018年の訓練からは、対策本部ではホワイトボードを使う必要がなくなりました」と、山家氏は実際の訓練の模様を語る。
また阿部氏は、「2017年、18年と回を重ねたことで災害ネットでの情報共有や案件管理の習熟度が上がってきました。例えばある事象が発生して災害ネットに入力され、その案件の対応が完了すれば<この案件は終了した>と入力し明示してされるようなケースが出てきました。特にそういったルールを設けていた訳ではありませんが、確かにそのように入力しておくと非常に分かりやすい。このように、個々の参加者が自主的に工夫することで、災害ネットの活用および情報共有の方法に対する習熟度が自然と向上してきています」と災害ネット活用の現状を説明する。
訓練自体は、緊迫感を持ちながらも進行が停止するなどの最悪の事態も発生せず無事最後まで完了し、これは大きな成果といえるだろう。しかし本当の成果は、従来のような情報共有上の問題が取り払われたことで、現場におけるそもそもの防災上の課題がより見えやすくなったことだ。
訓練後の災害ネットに対する現場の意見では、「情報一元化により情報共有がスムーズにできた」「時系列での状況把握がしやすい」「常に最新情報を確認できるところが良い」、また「写真等が添付できるので状況を的確に伝えやすい」などの情報共有・把握に対する評価が高かった。また、情報共有に特化することで実現したシンプルな操作性も好評だ。一方、入力/運用ルール整備の必要性を訴える意見など、改善点も把握することができた。
「多機能型のツールだとその機能に使われてしまうというところがあります、災害ネットは非常にシンプルで、どちらかと言えばユーザー側が使い方を考えていくタイプのツールではないでしょうか」というのが阿部氏の意見だ。
また、改めてしっかりと時系列でデータを記録しておくということの大切さも実感した。
「ホワイトボードを使う場合は、その板面を写真で記録しておくケースが多いと思いますが、その写真を後で見て何か気づきを得たり、アクションを起こせるかというと現実的には難しい。例えば、具体的に誰がどのような指示を出したのか、検証したい箇所があったとしても板面の写真からトレースするのは現実的には相当困難です。災害ネットのデータによって、そういった情報を後から追いかけることができるというのは大きな意味があります。例えば、どのような種類の情報が何件発生したのかということをすぐに分析できます。昨年分のデータ分析は概ね1週間で一通り出来ました。どの部署がどれぐらいの情報を発信しているのか、発生した案件に対してどれだけ完了しているのかなどの状況、また、指示で使ったのか、報告や連絡で使ったのかなどの災害ネットの使われ方など、非常に興味深い分析結果を得ることができました。災害時や訓練時のリアルタイムでの情報共有は非常に重要ですが、さらに一歩進んでその後の状況分析まで考えることはとても意味のあることだと思います」と、阿部氏は情報の蓄積および分析の重要性を訴えます。
災害ネットはシンプルな操作性で容易に情報を入力・共有ができるために、ユーザーの情報入力に対するモチベーションを損なうことがほとんどない。そして、当日の情報共有と後日のための蓄積が同時に、かつ簡単に実現できるところが災害ネットの大きな強みの1つだ。
今後の展望 国内外の企業を"つなぐ"、「グローバルハブ」を目指す
ユーザーの負荷を最小限にして手軽に情報の共有やその時系列の記録ができ、さらに写真などによる効率的な状況の把握ができる災害ネットは、災害時以外でも活用が可能だ。例えば、日々のデータセンターの運用では、顧客からの指示や担当者間連絡、ハードウェアおよびソフトウェア上のオペレーション、点検や確認、予期せぬアクシデントなどさまざまな事象が発生する。そのような都度発生する多くの事象を災害ネットで管理することができれば、より着実かつスピーディーな運用が可能になり、結果的に運用品質が向上することが期待される。また、発生した事象の記録が残るために、想定外の事態が発生した場合でも事後に客観的な原因分析ができ、抜本的な対策も立てやすくなる。アット東京様でも、災害訓練時での活用経験を生かし、上記のような日常的に発生する事象の管理を含めて、ユーザー企業のさらなる利便性や安全性向上につながるような災害ネットの使い方を検討・模索中だ。
災害対策の今後の展開については、「全般的な自然災害に対する対策は、これまででかなりのレベルまで進めてきました。これからは、例えば国際的なテロに対する対策や、富士山噴火に対する対策など、個別の災害やアクシデントに対するシミュレーションも進めていきます。また、2020年東京オリンピック開催に伴って周辺人口が急激に増減した場合などのセキュリティ対策も、直近の課題として取り組んでいきたい」と、山家氏は考えている。
また、『つづく、つながる、そして生まれる。ここは共創型データセンター』というキャッチフレーズを掲げるアット東京様が今目指しているのが、サービス事業者の相互接続拠点そしてビジネスエコシステムの拠点、「グローバルハブ」のような存在だ。
「今年度からは『ザ・グローバルハブ』をコーポレートミッションに据えて、国内およびグローバルのさまざまな企業を結びつけていく、IT業界のハブ空港のような存在になりたいと考えています」と、山家氏は同社の目指す先を語る。
さらに、「協創型データセンター」としてのアット東京様のアクティビティは、必ずしもIT業界だけにとどまらない。コンサートやライブの映像配信、またeスポーツイベントなどをスムーズに実施できる環境を整え、急遽開催が決定したイベントでも対応可能としたサービスを「クラウドラボ」の名称で開始。これは大手クラウド事業者と直結している同社の環境と作業室を1日単位で利用できるサービスである。また、100社以上が参加し、多彩な事業者やユーザーをつなげるコミュニティ「アット東京ビジネスポータル」を立ち上げることで、新規事業を育てるインキュベーション施設のような役割を果たそうとするなど、新規ビジネスの創出・促進する拠点としてのビジネスハブを目指す。
災害ネットの導入効果
※本事例に記載された情報は取材時点のものであり、社名、内容など閲覧される時点では変更されている可能性がありますことをご了承ください。本事例は情報提供のみを目的としており、BIPROGYは、明示的または暗示的を問わず、本事例にいかなる保証も与えるものではありません。
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