3章 再生型ネットポジティブ社会に向けたリジェネレーション・デザイン 四つの視点×デジタル技術のケイパビリティ(1)

共創
デジタル技術の「つなげる力」は、さまざまなリソースやデータの価値を可視化することで、人や組織をつなげて共創関係を作り出す。例えばWeb3は、参加者個々の強みが発揮されやすい共創形態である分散型コミュニティの創出を助ける。また「最適化する力」は、共創コミュニティが効率的に価値を生み出せるよう、さまざまな経済活動を最適化する。一方で、生成AIと「つながる」といった共創の形もある。生成AIは求められているものを理解し、柔軟にアイデアを提示することで人の創造性を「拡張する」。新たな選択肢を提供するAIの能力と、人の創造性とを掛け合わせることで、これまでにない価値の創出が可能になる。
共創×「つなげる」 〜人や企業をつなげて価値を創出する
共創は、共通の価値観、理想、目的を持つ人々が集うことからスタートする。参加する個人や企業、団体の属性(国・地域・性別・年齢・業種業態等)が多様性に富んでいるほど、新たな価値を生むための新鮮なアイデアがもたらされる。多様性がうまく活用されるためには、まず対話による参加者間の相互理解とリスペクト、公平な関係性が不可欠となる。多様な価値観を学習した生成AIは、示唆に富んだ情報を創出することで他の参加者への理解促進を支援する。AIが参加者同士のつながりを深化させることで、力強い共創の土壌が形成される。またWeb3やDAO等の組織形態は、参加者の関係をフラットにし、透明性の高いガバナンスの利いた意思決定を可能にする。さらにWeb3によるトークンを介した小口の取引は、デジタル経済圏を生み出して持続的な共創を可能にする。
共創×「最適化する」 〜データ連携により価値を創出する
共創による価値の創出・循環に重要な役割を果たすのが、データ連携である。個人・企業・業種間の異なる形式のデータ、あるいはアプリケーションやサービスごとに分散されているさまざまな情報が、データ共有の認可・管理のもとに統合・連携されることで、必要なデータを適宜抽出・活用できるようになる。共創活動の円滑化に加え、データを共有するコミュニティ全体の最適化が図れるようになり、従来はハードルが高かった異業種との共創が促されることで、新たな価値の創出・循環が活性化する。例えば、レストラン事業者が運用する予約システムと、交通事業者の配車システムのデータを連携させることで、一回の食事にかかる利用者のアクションをワンストップ化でき、両事業者は互いのビジネスで最適化・効率性向上を図れるようになる。こうしたデータ連携技術の進化により、データ所有権を持つ個人とプラットフォーマー間での共有、全く異なるサービス間での共有が可能となり、共創の成長を加速させる。

共創×「拡張する」 〜人の創造性を拡張して価値を創出する
AIとの共創により、人はそれぞれの業務でより創造性を発揮できるようになるだけでなく、「社会にどのような価値をもたらしたいのか」「どのような製品を生み出したいのか」等、共創におけるビジョンや理念の発想に注力できるようになる。
例えば、製造業において現在、要件に基づき新しい製品設計案を提示する「大規模製品モデル」の研究が進められている。同研究では人の言葉を理解して対応する機能を持つAIのLLMが、製品設計者の求める製品像を理解し、製品の動作原理、製造方法、関連する制約等まで加味したうえで設計案を提示する。さらに人が作った設計案の不足点を挙げ、改善点等の選択肢まで提案する。こうした作業の自動化が進むほど、人の仕事は、判断、決定、あるいは選択肢を組み合わせて新たな設計の方向性を打ち出すといったものになっていく。生成AIや3Dプリンタ、ロボットがhow/doを、人がwhy/whatに基づいた意思決定を担う分業が進むだろう。価値の創出・循環を目指すにあたり、人はビジョンの策定、課題の見極め、製品・サービスに込められた志や想いを繰り返し「問い」続けること等、より共創の本質に関わる作業で本領を発揮できるようになる。
- *Technology Foresightは、BIPROGY株式会社の登録商標です。
- *その他記載の会社名および商品名は、各社の商標または登録商標です。