2章 リジェネラティブな未来を拓くテクノロジー リジェネレーションを加速させるテクノロジー(3)

生成AI
テクノロジーの進化
生成AIは、知的作業での「便利なツール」から「コラボレーター(協力者)」へと進化する。人の能力を拡張させるとともに、設計・開発業務に新しいエンジニアリングをもたらし、生産性を飛躍的に向上させる。無意味または誤った内容を真実であるかのように生成するハルシネーション等の克服すべき課題はあるものの、技術の進化や適切なデータセットによる学習、また開発・利用におけるルール整備等により解消され、「できること」が高度化していく。
その第一段階として、すでに文章の作成・要約、議事録作成、コード生成、アイデア案出等での業務利用が始まっている。音声・画像・テキスト等の多種類のデータを一度に処理できるマルチモーダル技術の実装により、動画の要約や、文章入力によるイラスト作成等、活用の幅も拡大していく。次の段階では、生成AIを任意の業務に特化して活用することを目的に、適用先に合わせて専門知識や新たな知識を追加学習させる「ファインチューニング」や、外部ソースからの最新情報を用いて質の高い回答を生成させる「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」の適用が進む。さらに次の段階では、複雑な知的作業の代替、人との共創が本格化するだろう。顧客の意図を理解したコールセンターでの応対、設計者の要望や製造工程をふまえた設計書案の作成等、生成AIの活用を前提とした課題解決や業務シナリオ策定が推進される。
もたらされる社会インパクト
【経済】業務効率化により生産性が向上していく
生成AIは業務プロセスそのものを、AI活用を前提としたものへと変えていく。例えば情報システムのマイグレーションにおいて、膨大な量のコード変換作業にコード生成AIが活用されることで、従来のエンジニアリングプロセスが大きく変わる。人の役割はプログラムの作成や修正から、要件定義や結果確認へと移行していく。作業結果の誤り検知、適切なコードへの自動修正も可能になるだろう。そうした生成AIの利用には、プロンプト入力やファインチューニング、データエンジニアリング等で固有の技術が求められるため、今後新たな専門職種が生まれる可能性もある。作業価値を測る基準も、人・時間・規模といった作業量ではなく、変換精度に基づいたものへと変わるかもしれない。生成AIはすでに創薬プロセスや製造業での設計エンジニアリングプロセスへの適用が進んでおり、今後は業務効率化という役割を超え、より知的な作業への活用が進んでいく。人の創造性を高めるコラボレーターとしての役割が増していく。

【社会】暮らしにおける情報の収集・整理・検討から解放される
自然言語によるコミュニケーションを通して、生成AIは人が「何を意図しているのか」に対する理解を深めており、細かな指示を与えなくても自律的にタスクを遂行する能力を高めている。例えば「ハワイ旅行の計画」といった曖昧な指示を受けても、タスクをサブタスク (移動・宿泊・観光・ショッピング等) に分割したうえで、自律的に大量の情報を収集・整理して最適な回答を生成・提示する。利用者は労力が大幅にカットされ、嗜好に応じてパーソナライズされたプランを選択するだけで済む。
【環境】生成AIが及ぼす環境負荷が最小化される
生成AIのLLM(大規模言語モデル)は、性能を表す指標の一つであるパラメーター数がすでに一兆を超え、大きな電力消費による環境への影響が懸念されている。そこでCPU負荷を抑えて電力消費を軽減するためのさまざまな試みがなされていく。例えば、生成AIが業務プロセスの自動化に活用されるケースでは、パラメーター数が少ない業務特化型のモデルを構築したり、既存のLLMを少量のデータでファインチューニングするといったアプローチが取られていく。グリーン電力を使用したデータセンターでの学習・運用も選択肢となるだろう。また、光技術を活用した電力消費の少ないコンピューターアーキテクチャーが提唱されており、低消費電力を実現する次世代半導体の利用と合わせて、AI活用推進のためのガイドライン整備に影響を与えるだろう。
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