特別企画(対談):キーパーソンが語る“DXB(DNP×BIPROGY)”の現在地とこれから(Live kit編)
2025年2月14日
「Live kit®」:重要顧客への提案をきっかけに生み出したライブコマースの協業モデル

大日本印刷(以下、DNP)とBIPROGYは新たな価値創造に向け、「DXB」(DNP×BIPROGY)の姿勢で取り組みを続けている。今回は、ライブコマース「Live kit」に焦点を当てて紹介していきたい。日本に先駆けて、諸外国で新しい販売チャネルとして注目されたライブコマース。このモデルをそのまま日本に輸入したケースも見られたが、成功例は必ずしも多くない、ただ、最近はLTV(顧客生涯価値)やコミュニティづくりという観点から、ファンコミュニティの醸成やロイヤルカスタマー化の促進を意識して導入を進める企業が増えつつある。
DNPの旅行会社への提案を契機として、ライブコマースはDNPとBIPROGYとの協業分野になった。その現在地とこれからを見ていこう。
日本でも注目され始めたライブコマース
――ライブコマースをめぐる市場動向について教えてください。
阿部
ライブコマースは中国で成長した販売チャネルで、最近は日本でも注目されています。中国でライブコマースが頻繁に使われるようになった背景には、インフルエンサーが持つ消費者への影響力があります。SNSで日常的に目にするインフルエンサーが信頼できる情報を提供することで、消費者からの信用が生まれ、結果として親近感が形作られていき、消費者のライブコマース利用が拡大しました。今後日本でも、インフルエンサーが「モノを売る」「実演販売を行う」スタイルを真似て、店員や一般社員が気軽にライブコマースを行う販売チャネルの構築が広がっていくでしょう。

BIPROGY株式会社
インダストリーサービス第一事業部
データビジネス創出センター マーケティングビジネスグループ コンサルタント
阿部正典
――中国と日本の状況は、かなり異なるのですか。
阿部
異なります。日本の消費者の前には、信用できる販売チャネルがたくさんあります。こうした要因もあって、数年前まで日本でのライブコマースは低調だったのですが、最近は新しいアプローチで取り組む企業が業種・業界を問わず増加傾向にあります。キーワードは、「LTV(顧客生涯価値)」や「コミュニティづくり」。長期的に顧客とつながり、ロイヤルカスタマーを増やし、結果として売上増を目指そうというアプローチです。
竹内 氏
消費者の価値観が多様化する中、さまざまな業界の企業が販売やコミュニケーションの新たなチャネルを求めています。そのようなニーズは以前からあったと思いますが、そこにフィットする形でライブコマースが現れた。こうした背景から、多くの企業がマーケティングの手段として検討するようになりました。

大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部 第1CXセンター 第1本部第2部第1課
竹内亮太 氏
――BIPROGYはライブコマース向けのSaaS「Live kit」を提供しています。
阿部
Live kitは、オウンドメディア上でライブコマースを展開するSaaSです。当社はもともと通販業界に強く、業務用の基幹システムをはじめ多くの関連サービスをお客さまに提供してきました。その一環でライブコマースに着目したのは5年ほど前です。当時はノウハウがないので、ライブコマースを手掛けるスタートアップと組みました。約1年後に、その事業が売却されることになり、BIPROGYに譲渡された経緯があります。事業と顧客を引き継いだ後、Live kitは着実に進化を遂げ、DNPとの協業によりさらに成長を加速させています。
竹内 氏
DNPがLive kitに関わるきっかけとなったのは、A社(旅行会社)への提案です。背景には、A社が若い顧客層にアピールする新たなマーケティング施策を求めていたという背景があります。提案するにあたって他のベンダーにも話を聞きましたが、最終的にはBIPROGYのLive kitを選択しました。システムの機能面はもちろん、協業体制を背景にした総合的なサポート体制を重視しました。当時、DNPのライブコマースはまだ手探りの状態でした。このため、パートナーとして伴走してくれるBIPROGYの信頼感が決め手でした。
●「Live kit」のサービスイメージ

重要顧客の新規案件での大型受注を獲得
――旅行会社のA社におけるライブコマースの概要などをうかがいます。
竹内 氏
コンテンツ配信は2024年4月に始まり、年間20回の配信を予定しています。1本当たり数十分~1時間程度で、観光地の風景やイベントなどの映像を背景に、MCとA社担当者が掛け合いをするという内容です。月に1、2回決まった時間に配信し、視聴者はリアルタイムで参加します。視聴者のチャットの内容を見て演者が反応したり、視聴者同士がチャットで盛り上がったりします。コンテンツはアーカイブとして残されるので、別の時間に視聴する視聴者もいます。テーマに応じた企画設定、台本などのコンテンツ制作はDNP側で行い、配信や現場ディレクションなどはBIPROGYが担当しています。
阿部
ライブコマース関連の経験を積む中で、当社には企画づくりや台本、撮影、現場の仕切りなどさまざまなノウハウが蓄積されました。先ほど触れたA社に限らず、お客さまの要望に応じてライブコマースを関連サービスと一緒に提供することができる。それが私たちの強みだと思っています。

竹内 氏
実は、DNPにとってA社は、長年お付き合いのある重要なお客さまです。当社はマーケティングパートナーとして、さまざまなお手伝いをさせていただいています。その中でも今回は新しい取り組みであり、年間でのお手伝いが確定した際にはDNP社内でもちょっとした話題になりました。各業界を担当する営業部門から、「お客さまへの次の提案にライブコマースを入れたい」との声も多く寄せられています。当初は苦労した部分もありますが、BIPROGYとDNPの協業モデルに、改めて確かな手ごたえを感じています。
片野
――苦労されたのはどういった点でしたか。
竹内 氏
ライブコマースは、ノウハウが少ない状態からのスタートでした。BIPROGYとDNPだけでなく、お客さまやコンテンツ制作に関わる協力会社など関係者が多いので、方向性を共有して物事を進めていくのは当初は容易ではありませんでした。ただ、配信を重ねるたびに経験値は高まります。お客さまのニーズにマッチした配信番組づくりのノウハウも磨かれてきたと思います。
マーケティングROIと継続視聴者数
――そのほかの具体例があれば教えてください。
阿部
こちらも旅行会社であるB社の事例があります。A社はわれわれと一緒につくり上げていくスタイルでしたが、B社は「ゆくゆくは自社で完結できるようにしたい」との方針で「勉強するから教えてほしい」との依頼でした。そこで、企画や制作、配信などの一連の業務について伴奏支援させていただきました。Live kitの導入決定は2023年春で、ライブコマースの初回配信を同年11月に実施しました。その後、B社は月1~2回のペースでライブコマースを配信しています。動画づくりなどはB社の内製なので、BIPROGYは側面から手厚く丁寧に継続サポートすることを心掛けています。
――具体的にはどのようなサポートを行っているのですか。
阿部
定期的なミーティングを開いて、視聴状況を確認し、改善点、次の配信で取り組むアイデアなどを話し合います。SNSのライブコマースでは得られない視聴状況データを取得できるのがLive kitの強みで、データ活用を支援するサポートを行っています。例えば、視聴者1人ひとりの視聴時間(何時に視聴開始し何時に見終えたか)の把握が可能で平均視聴時間の算定が容易です。この特徴を生かして、他の視聴状況データも組み合わせ、「視聴を通じて深い理解や共感を得られた番組になったのか」「チラ見だけで離脱した視聴者が多く、ファンが集う番組になり得てなかったのか」などを可視化し、番組の改善点を検討するヒントにします。
――ライブコマースの将来の可能性について、どのように見ていますか。
竹内 氏
先ほどご紹介したA社での実績が評価され、食品関係のお客さまからの受注も決まりました。ライブコマースが持つ可能性は、さまざまな業界に応用できるという手ごたえを感じています。今後は、BIPROGYとの協業をベースにライブコマースを進化させ、お客さまへの提供価値をより一層高めていきたいですね。DNPはお客さまにより近いところにいるので、細かなニーズを把握しやすい立場です。これをBIPROGYにフィードバックすることで、Live kitの機能や操作性などの改善につなげることもできるのではないかと思います。
阿部
「ライブコマースに取り組むならSNS」というイメージがあるかもしれません。ただ、SNS空間のライブコマースは大幅な値引きや特典で視聴を喚起する競争が非常に激しく、宣伝合戦の様相を呈しています。一方、オウンドメディアのライブコマースは、そうした宣伝競争からは距離を置き、商品やブランドのファンが継続的に集う場の形成が可能です。一般にコミュニティづくりは、自社アプリやファンコミュニティ構築サービス、NFT活用などさまざまなツールで行われますが、定期的・継続的にライブ番組が配信され、継続視聴者が一定数必ず視聴し、常連の視聴者がリアルタイムにチャットで盛り上がったり、お互いに購買を促したり促されたりすることや、アーカイブでその内容を共有できるライブコマースでも、ファンが集う一種の“コミュニティ”づくりが可能です。しかもオウンドメディアのライブコマースは、宣伝臭の少ないコミュニティとして新たなファンを醸成する力がきわめて高いと思われ、今後のファンづくりの手段の大本命に躍り出るのではないかと見ています。
Live kitは、ファンづくりを目指す事業者様に向けたサービスを一層進化させていきます。撮影や演者が素人であっても、今までより番組づくりがさらに手軽に準備でき、チャット会話を促したり視聴者の反応を導いたりすることで継続視聴者(ファン)が増えるサービスや、多岐にわたるデータ活用が行えるサービスの提供を目指しており、より使いやすいサービスをDNPと共に提供していきたいと考えています。

■関連リンク
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