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「下請法」あらため「取適法」へ:SRM コラム

1. 「下請法」改正の背景

「下請法」は、下請取引の公正化と下請事業者の利益保護を目的とし、1956年に施行、2003年に規制対象が役務取引に拡大する改正が行われています。
今回、あらためて大きく改正されたわけですが、その背景、目的はどのようなところにあるのでしょうか。本法律の改正案が閣議決定された時の概要説明資料には改正の背景として以下の記載があります。

近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、「物価上昇を上回る賃上げ」を実現するためには、事業者において賃上げの原資の確保が必要。
中小企業をはじめとする事業者が各々賃上げの原資を確保するためには、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくことが重要。
例えば、協議に応じない一方的な価格決定行為など、価格転嫁を阻害し、受注者に負担を押しつける商慣習を一掃していくことで、取引を適正化し、価格転嫁をさらに進めていくため、下請法の改正を検討してきた。

日本ではデフレ状態が長く続いてきましたが、近年は流れが変わり円安による輸入品価格をはじめ各種コストが上昇しています。その一方で事業者には「物価上昇を上回る賃上げ」を実現することが期待されていますが、必ずしも期待通りの水準にはなっていません。改正の背景には特に中小企業をはじめとする事業者が賃上げを実現するためには、コスト増を適切に価格転嫁できる仕組みを整える必要があり、これまでの下請法のルールだけでは不十分だ、という問題意識があったようです。

2.改正内容と取適法の概要

それでは、具体的に何が変わったのでしょうか。以下に改正点を簡潔に記載します。

-規制の見直し-

適用対象の見直し

  • 対象取引の追加
    対象取引に、発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引(特定運送委託)を追加
  • 事業者の基準の見直し
    従業員数300人(役務提供委託等は100人)の区分を新設

禁止行為の追加

  • 「協議に応じない一方的な代金決定」を禁止
    代金に関する協議に応じない、必要な説明・情報提供をしない、ことによる一方的な代金額の決定を禁止
  • 「手形払」等を禁止
    対象取引において、手形払を禁止。その他の支払手段(電子記録債権、ファクタリング等)についても、支払期日までに代金満額相当の現金を得ることが困難なものを禁止

面的執行の強化

  • 事業所管省庁に指導・助言権限を付与
    事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限を付与。省庁間の相互情報提供に係る規定を新設

その他

  • 製造委託の対象物品に金型以外の型等を追加
  • 書面交付義務について、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電子メールなどの電磁的方法による方法とすることが可能になる

-法律の題名・用語の変更-

法律名を含め以下のとおり用語を変更しています。
この用語変更は

  • 「下請」という用語は、発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるとの指摘があること、
  • 「下請」という用語が使われなくなっていること、

を反映したものです。

改正前 改正後
下請代金支払遅延等防止法
通称:下請法
製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律※
略称:中小受託取引適正化法
通称:取適法
親事業者 委託事業者
下請事業者 中小受託事業者
下請代金 製造委託等代金

※実は改正後の法律名に「取」も「適」も入っていません。

改正内容を反映した「取適法」の概要

前述の改正内容を踏まえ今回改正されていない点を含め「取適法」の概要を記載します。

適用対象の取引

①取引の内容×②取引企業の規模(資本金基準と従業員基準)に応じて以下が適用対象となります。

(A) 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託(プログラム)、役務提供委託(運送・倉庫保管・情報処理)、特定運送委託

①取引の内容:製造委託、修理委託、情報成果物作成委託(プログラム)、役務提供委託(運送・倉庫保管・情報処理)、特定運送委託

②取引企業の規模:

取引企業の規模

(B) 情報成果物作成委託(プログラム除く)、役務提供委託(運送・倉庫保管・情報処理除く)

①取引の内容:情報成果物作成委託(プログラム除く)、役務提供委託(運送・倉庫保管・情報処理除く)

②取引企業の規模:

取引企業の規模2

適用対象となった場合の委託事業者の義務と禁止行為は下表のとおりです。

義務

1 発注内容を明示する義務
(発注書の交付、書面または電子メール等の電磁的方法)
2 書類等を作成・保存する義務(2年間保存)
3 支払期日(受領後60日以内)を定める義務
4 遅延利息(14.6%)を支払う義務

禁止行為

1 受領拒否
2 支払遅延(手形払い等も禁止)
3 減額
4 返品
5 買いたたき
6 購入・利用強制
7 報復措置
8 有償支給原材料等の対価の早期決済
9 不当な経済上の利益提供要請
10

不当な給付内容の変更・やり直し

11 協議に応じない一方的な代金決定

3.まとめ

以上見てきたように、書面交付の手段については電磁的方法が許されるといった緩和策を含むものの、全体としては委託事業者となるバイヤー企業にとって、規制が強化される方向の改正内容となっています。しかし、その背景には、サプライチェーン全体としてコスト増に対し適切な価格転嫁を行うことで物価上昇を上回る賃上げの実現を目指す、ということがありました。
自分自身を振り返って考えたときに、法律でルールが決まったから、ということだけではなくルール改正の趣旨や背景を踏まえた振る舞いをできるようになりたいものだと、あらためて感じました。

今回の改正により、委託事業者には従来以上に透明性の高い取引管理が求められます。BIPROGYが提供するクラウド型調達管理ソリューション「eBuyerBrains Plus」ではこれら改正内容を受けて取適法への対応を実施済みです。また、この改正以前にサプライヤー法人の従業員数を管理できる仕組みを持っていましたので規模条件に従業員数が加わることにも即対応可能です。
eBuyerBrains Plusでは、これからも、取適法に限らず法改正、制度改正に適時対応してまいります。
取適法対応や調達DXの具体的な進め方について詳しく知りたい場合は、ぜひこちらからお問い合わせください。

担当:インダストリーサービス第三事業部 西田憲司

※参考文献

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