「カーボンフットプリントガイドライン」の概要とポイントについて解説 - コラム
今、全世界でカーボンニュートラルの実現が求められる中、国家や企業はCO₂をはじめとする温室効果ガス(以下、GHG)の排出削減に努めています。その中でも、GHGの排出削減を実現するための基盤として、製品単位のGHG排出量であるカーボンフットプリント(Carbon Footprint of Products 以下、CFP)の算定が求められています。
一方、消費者のCFPに対する認知の低さやCFP算定の難しさ、さらに欧米では「グリーンウォッシュ」(環境改善の効果がないのに効果があるように称すること)が課題として挙げられます。
本記事では、経済産業省と環境省が連名で作成・公表した「カーボンフットプリントガイドライン」および、化学業界におけるグローバルな主導団体であるTogether for Sustainability(以下、TfS)が発表した「化学産業のための製品カーボンフットプリントガイドライン」の概要やポイントについてわかりやすく解説します。
カーボンフットプリントとは?
CFPとは、製品やサービスにおける原材料調達から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出されるGHG排出量を、CO₂排出量に換算して数値化したものです。
例えば工場で製品を生産する際に使用されるエネルギーや輸送に伴う燃料燃焼で排出されるGHG排出が算定対象として該当します。また製品を製造するために調達された原材料も、原材料の製造時にGHGが排出されたため算定対象とします。
CFPに取り組むことは、企業と消費者の双方にメリットがあります。
企業にとっては、CFP を算定通じて自社の排出量が多いポイントを理解できるため、効果的な排出削減対策の検討や排出削減効果のモニタリングをすることができます。その結果、自社のCO₂削減を効率的に実現できるだけではなく、ステークホルダーに対して自社の環境活動をアピールすることにも繋がります。
消費者はこれまで、CO₂をはじめとするGHGの排出が地球温暖化の原因になっていることを知っている一方、日常生活の中で自身がどれほどのCO₂を排出しているかを認識できていませんでした。さらに、環境に良い活動を行ったとしても、実際にどの程度のCO₂削減に貢献できたかを実感することができませんでした。しかし、CFP算定が浸透されれば、自身の環境活動を実感できるようになるため、環境に良い製品を積極的に選択することが期待されるでしょう。

カーボンフットプリントガイドライン作成の背景・目的とは?
CFPに取り組むことには企業と消費者の双方にとってもメリットがあることから、国内外の企業において、CFPへの取り組みを検討するケースが増加しています。
しかし、こうした流れに対応する上で重要となるのが、CFPの算定手法に関する共通ルール、すなわち「ガイドライン」の存在です。
もし統一的なガイドラインが存在しなければ、企業や団体ごとに算定方法がばらばらとなり、同じ製品カテゴリーでも結果に大きな差異が生じる恐れがあります。また、ガイドラインがないことで、企業側にも不都合が生じます。例えば、自社の製品CFPを示すために多大な時間とコストをかけて独自に算定しても、業界や国際的に認められない形式であれば、評価の対象とされず、取引の際に不利になる可能性もあります。さらに、脱炭素に向けた取り組みの透明性や信頼性を確保するためには、監査や第三者検証のしやすさも求められますが、それもガイドラインがあって初めて機能します。
このような状況を踏まえ、排出量の計算方法や考え方を統一し、CFPの算定における公平性を確保するために、経済産業省と環境省が連盟で作成したのが「カーボンフットプリントガライン」です。
カーボンフットプリントガイドラインのポイント
本ガイドラインは、CFP算定および検証の際に必要とされる事項や枠組みについて整理し、それらを満たすことで一定の確からしさを担保するための方針が示されています。
具体的には、製品あたりのCFPを算定・報告するための要件がまとめられているISO 14067やGHG Protocol product standardなどの国際的な基準における規定の解説を示すとともに、これらで明らかにされていない部分についての取り組み方針が記されています。
そのため、これからCFP算定に取り組んでいく企業や算定者は、本ガイドラインを活用することで、国際基準に整合した算定を行うことができます。
尚、本ガイドラインは全2部での構成になっており、第1部では本ガイドラインに関する基本的な考え方やCFPの意義・目的について説明されています。また第2部では、CFPに関する取り組みの指針が、一般的な4つのステップに沿って説明されています。
本記事では、ガイドライン内に記載のあるCFPに取り組むための4つのポイントについて説明します。
1.算定方針の検討
まず、CFPに取り組む目的や、誰に向けた算定であるのか、さらに算定のルールについて検討します。
目的を設定する理由は、CFP算定の客観性や正確性の程度を判断するためです。特に、商品が他社商品と比較されることが想定される場合、参照する算定ルールを統一する必要があります。

出典:経済産業省、環境省 カーボンフットプリント ガイドライン
2.算定範囲の設定
次にCFP算定を実施する範囲の設定をします。
CFPの算定単位は基本的に、製品システムの定量化された性能である「機能単位」で定義する必要があり、これを定めることで一定の性能あたりのGHG排出量を算出することができます。しかし、機能単位での定義が困難な場合や中間製品を扱う際には、機能単位を実現するための製品の個数や量を示す「宣言単位」を用いることも可能です。
算定範囲を設定後、ライフサイクルフロー図を作成することで、対象とするライフサイクルのプロセスやデータの収集期間、また除外するプロセスなどを設定します。対象とするライフサイクルは最終製品であれば原材料調達から廃棄・リサイクルまで、中間製品であれば原材料調達から製造までが基本となっています。

出典:経済産業省、環境省 カーボンフットプリント ガイドライ
3.CFPの算定
CFPは算定範囲のプロセスごとの排出量を計算し、全体の合計値として算出します。計算式は、以下の通りです。

出典:経済産業省、環境省 カーボンフットプリント ガイドライン
データの収集に関しては、基本的に自社で取得した1次データを使用する必要がありますが、1次データの収集が困難な場合には、できる限り客観的で信頼性の高いデータを活用することが求められます。
4.検証・報告
CFPの信頼性を担保するために、算定が適切に実施されたか否かを、内部検証や第三者検証を用いて実施することが望ましいとされています。しかし、内部検証と第三者検証では、それぞれ要するコストと得られる効果が異なるため、CFPの目的や用途に応じて正しく選択する必要性があります。
また、検証後は検証結果をCFP算定報告書としてまとめ、顧客企業や消費者などに向けて公開します。尚、公開の際には読み手がCFP算定の内容を理解できるように透明性を担保し、結果・データ・⼿法・仮定・解釈について、詳細に説明しなければいけません。

出典:経済産業省、環境省 カーボンフットプリント ガイドライン
化学産業のための製品カーボンフットプリントガイドラインについて
様々な産業がCFP算定に着目している中で、幅広い業界へ製品を提供する化学産業は、バリューチェーン全体のGHG排出量削減に寄与する産業として、CFPの算定・開示への取り組みが特に求められています。また、化学産業のGHG排出量の大部分は、スコープ3と呼ばれる上流のバリューチェーンから生じており、製品単位でのデータの透明性や正確性を高めることが、極めて重要なポイントになっています。
そこで、化学業界におけるグローバルな主導団体であるTogether for Sustainability(TfS)は、化学産業各社が、自社製品のCFP算定を理解し、バリューチェーン全体における透明性と正確性を高めることを目的として、「化学産業のための製品カーボンフットプリントガイドライン」を作成しました。
本ガイドラインは、化学業界におけるスコープ3のカテゴリ1(購入した物品・サービス)の排出量とCFPの評価をより一貫して算定するための基準を設定することを目標としており、CFP報告に取り組む化学業界の事業者に利用されることを意図しています。
化学産業は多くの業界に対して製品を提供する産業として、持続可能な社会を構築するにあたり重要な役割を担っています。そのため、本ガイドラインは、サプライヤー固有のデータに基づいて自社のインベントリを算定する方法を事業者に示すとともに、バリューチェーン全体の透明性を高め、脱炭素化を進めることに寄与することが期待されています。
出典:TfS 化学産業のための製品カーボンフットプリントガイドライン
化学品向けCFP算定支援サービス「EcoLume™」とは?
本記事では、消費者のCFPに対する認知の低さやCFP算定の難しさ等の課題を解決するために、経済産業省と環境省によって作成された「カーボンフットプリントガイドライン」の概要とポイントについて説明してきました。また、業界の中でも特にCFP算定の重要性が高いとされる化学業界に向けて、TfSが作成した「化学産業のための製品カーボンフットプリントガイドライン」についても言及を行いました。
今後、カーボンニュートラルの実現に向けては、製品あたりのGHG排出量を算定することが急務であり、特に幅広い業界へ製品を提供する化学産業は、バリューチェーン全体のGHG排出量削減に寄与する産業として、CFP算定が極めて重要であることを理解いただけたのではないでしょうか。
このような状況の中、BIPROGYはGHGの排出削減を実現するための基盤として、製品単位のGHG排出量であるCFP( Carbon Footprint of Products カーボンフットプリント )の算定を支援するソリューション「EcoLume」を開発しました。
「EcoLume」は、化学産業に特化したCFP算定支援サービスであり、化学産業のお客様が抱えている多種多様な課題に対して、①算定支援コンサルティングサービス、②算定業務代行サービス、③CFP算定システム、の3種類のサービスを展開することで、それぞれのお客様に最適なご提案を実現します。