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事例紹介

変更管理、手作業からITへ ~ 効率性・正確性が向上

エーザイ株式会社 様

2017年09月29日

変更管理、手作業からITへ ~ 効率性・正確性が向上

製薬企業が行う事業活動は薬事法規の規制対象となるが、めまぐるしく変化する規制環境下でどう対応していくかは各社にとって大きな課題だ。中でも、必要に応じて変更される医薬品承認書の管理には膨大な労力と時間を割いているのが現状で、「もっと精度や効率性、正確性を上げたい」と考える企業も多い。日本ユニシスが提供する承認書情報の保管・管理を支援する「OpenApproval」(オープンアプルーバル)、申請書作成を支援する「OpenTrusty」(オープントラスティ)は、手作業からIT化へとワークフローを変革する。既に導入しているエーザイでは、様々な部署の業務に応じてこれらのソリューションが活用されており、ミスが許されない承認書の変更管理プロセスを全社的に最適化する。総括製造販売責任者で薬事部長の鈴木弘眞氏は、「全ての部署で効率性や正確性が向上していることは間違いない」と断言する。

左から鈴木氏、新明氏
左から鈴木氏、新明氏

コンプライアンス対応、薬事部門に大きな責任

製薬企業に必ず存在する薬事部門だが、その業務領域は極めて幅広く、企業によって職務区分の切り分け方が異なり、責任範囲もバラツキがある。大きく区分すると、[1]承認を得るまでの薬事[2]承認後の薬事[3]業態管理[4]流通やプロモーション面における薬事——の四つが挙げられる。

承認を得るまでの薬事業務では、CMCや非臨床、臨床の研究開発での薬事支援、申請資料の作成、承認申請や審査対応などの当局対応が主な仕事だ。承認後の薬事は、承認書の管理や効能追加の一部変更申請、CMCの一変申請や軽微変更届といった業務を行うほか、GQPを遵守する品質保証部門、副作用や有害事象を管理するGVPを遵守する安全管理統括部門、GPSPを遵守する製造販売後調査部門にまで及ぶ。

業態管理では、製造販売業、製造業、卸売販売業としての規制に対応する。最近では偽薬問題を含めた医薬品の適正流通に関する“日本版GDP”やプロモーション規制に対する薬事対応にも追われている。薬事部門がどこまでを責任範囲とするかは各社の判断によって異なるのが実情だ。

薬事法規も膨大だ。医薬品医療機器等法の「法律」から、医薬品医療機器等法施行令の「政令」、医薬品医療機器等法施行規則、GMPやGLP、GCPなどの「省令」、日本薬局方等の「告示」、厚生労働省局長、課長通知などの「通知」で構成されており、全てにおいて必ず遵守する必要がある。コンプライアンス対応において、薬事部門にかかる責任は大きい。

こうした中、エーザイの薬事部に求められる最大のミッションは「全社の薬事コンプライアンスの推進」。主に総括製造販売責任者の補佐から業態管理の全般業務、厚労省や都道府県薬務課、市区町村等の当局対応を行っている。現在求められている規制のレベルに合致させ、さらなる高質化と業務効率化を追求していくという目標を掲げる。

電子的検索がわずか30分‐コピー代、年100万円を節約

承認書の変更管理は、製薬企業にとって非常に重要だ。承認書の内容は、販売名を除き、所定の薬事手続きを取れば記載変更が可能になっている。記載事項には、原則として治験が必要な「効能・効果」や「用法・用量」、変更前に一変申請が必要な「製造方法」や「規格及び試験方法」「製造場所の追加・変更」などのCMC関連記載がある。例えば、エーザイが販売する認知症治療薬「アリセプト」は多岐にわたる剤形で11品目を数え、幾度にわたって承認書の変更を行っている。

製品品質への影響がないような例外的な場合には、審査なしで事後の軽微変更届だけで記載変更が認められるケースもある。申請時に誤記載や漏れ、逸脱は許されない。変更管理を主管とする品質保証部門と協力しながら、承認後も長期にわたって承認書を維持していくための対応を行っているという状況だ。

オープンアプルーバルの導入背景は、薬事面の効率性や正確性の向上にある。従来の紙と表計算ソフトのエクセルによる承認書の変更管理では、一変申請や軽微変更を行った場合、変更箇所のみの紙媒体で承認書がその都度発行され、全ての書類を付き合わせなければ最新の承認情報を確認できなかった。しかし、オープンアプルーバルの導入により最新承認情報のデータベース化が可能になり、承認書を活用する様々な部署に対して電子配信ができるようになり、現場で有効活用されている。

業務生産性で見たときにも具体的な成果を創出している。例えば、行政からの通知対応で承認書の変更を行わなければならないケースが発生したときに、自社で製造販売する品目のうち、どの品目が該当しているかを手作業で探索する場合には、熟練された人材でも1品目につき1時間、仮に100品目あると合計100時間の所要時間が必要になるが、オープンアプルーバルで電子的検索を行うと、担当者のスキルにかかわらず、わずか30分で承認書変更が必要な品目を探し出せる。

さらに、承認申請書作成も効率化でき、1件につき作業者の労働時間を3時間削減でき、年に150件あったとすれば450時間分の労働リソースを他の必要な業務に配分することができる。各部門に配布している承認書や軽微変更届書についても約10万ページ/年の節約、コピー代に換算すると100万円/年のコスト削減につながるほか、配付先組織では、書類保管用キャビネットが不要になり、省スペース化できる。

薬事部の新明大輔氏は、「2005年の薬事法大改正が実施された際に、厚生労働省による承認書の記載整備が行われたが、経過措置が終わった10年に承認書誤記載という新たな問題が浮上し、当社では“誤記載撲滅キャンペーン”を展開していた」と話す。オープンアプルーバルを導入したのはちょうどその頃。承認書の管理が徹底され、業務上の利便性も拡大した。

申請書を作成する部署では、承認申請書や変更届出書など年200件以上の行政提出文書を作成しているが、厳密な正確性が求められるため、導入前は手作業で原資料との整合性を確認するため時間と人力がかかっていたが、オープンアプルーバルの電子一元化したデータベースを活用し、大幅な業務改善ができた。

品質保証部門においても、GQPに従い、工場での製品製造と品質保証の管理監督が求められ、品目ごとの変更管理や品質標準書などの文書管理、製造所ごとの製造工程の詳細などを随時確認するために、オープンアプルーバルを活用し、業務効率性や正確性で格段の進歩が得られた。

申請書の誤記載防止、オープントラスティが有効

オープンアプルーバルに加え、今年度から“申請書作成時の誤記防止”“申請書作成業務の大幅時間短縮”“法令違反リスクの低減”などを実現するオープントラスティも導入した。

製造実態と承認書を照合する一斉点検が行われ、業界全体で誤記載を防ぐ仕組みが必要とされているが、同システムにより一変申請書または軽微変更届書を作成する上で効率的に行うことが可能。中でも新たに搭載された「差分比較機能」が大きなポイントだ。

申請書や軽微変更届書における誤記載は許されない中、一変申請や軽微変更届では変更箇所の点検はもちろん、意図しない変更が起きていないかなど、全体の記載を点検する必要がある。新明氏によると、「生物学的製剤の承認書は、通常の低分子医薬品の数倍のボリュームに達しており、全体の記載を人間の目でチェックするのは限界がある」と指摘する。

その場合にオープントラスティで実装された「差分比較機能」により、作成中の申請書と承認書について膨大な文字情報を電子的に比較することができるため、点検作業が大幅に効率化した。加えて、新たに承認申請書や変更届を作成する際に、複数の製造所と製造工程を整備することがあるが、その際に製造所番号整備機能によって製造方法を正確に整備できるというメリットもある。

規制においても予見性が難しくなる中、今後の薬事部門が進むべき方向性について、「行政による規制変化で大きく左右される」と鈴木氏は説明する。

しかし、薬事部門が果たすべき役割の本質は、変わりゆく規制の中においても変わらないだろう。規制の方向性をいち早く見極め、業界団体の活動にも積極的に参画し、業界内での情報共有や意見交換を密にすることで対応準備を図っていく。鈴木氏は、グローバルに展開する新薬メーカーとして、「日米欧アジア当局が求める方向性にも目を配っていきたい」と述べ、日常的に情報を収集し、先手の対応を取っていく姿勢だ。

2017年9月29日発行「薬事日報」掲載記事

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