日本ユニシスグループの新型インフルエンザ対策と事業継続計画(BCP)
2008年8月20日掲載
新型インフルエンザ対策本部
新型インフルエンザについてのニュースや特集番組などの報道が増えてきました。政府でも対策の議論が進み、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律が一部改正され、平成20年5月12日施行されました。日本ユニシスグループでも従来検討してきたBCP(事業継続計画)の対象災害に新型インフルエンザを加え、企業グループとしての新型インフルエンザ基本方針として新たに規程を作成し、全関連会社と連携してパンデミック(全世界流行)に対処する体制を整備してきました。
今までの検討経緯は次の通りです。
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2006年度から首都直下地震を重点課題に事業継続プロジェクトにより対応開始。
BCP(事業継続計画)のフェーズを完了し、BCM(事業継続管理)に移行 -
2007年1月 新型インフルエンザ対応の検討開始
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2007年8月 アジア地区出張者へのタミフル携行推進
保健所の承認のもと、帰国困難時の対応策定・実行 -
2008年3月 「社員向け 新型インフルエンザ対応ガイドライン」発表
事前、流行時の社員の個人生活での推奨する対策 -
2008年4月 「新型インフルエンザ対応 企業行動計画」承認・発効
事前対策、流行時の対策本部の設置、発令規則を規定 -
2008年5月 新型インフルエンザ対策本部机上訓練実施
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2008年6月から 支社店、グループ全社への説明会による啓発
こうした検討で決めた新型インフルエンザ対策での基本方針は次の通りです。
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人命を最優先とする。
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国・地方自治体の指導・勧告に従い、社会全体へのパンデミックに対する取り組みに協力する。
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安全を確保しながら業務の継続・再開を行う
2006年度より事業継続計画(BCP)プロジェクトを設置、代表取締役常務を責任者に日本ユニシスグループの関連組織、即ち人事、健康管理、総務、経営企画、営業、法務、システム開発サービス、保守サービス、アウトソーシングサービス、情報システム(データセンター)、情報セキュリティ推進から代表者の参加を得て、月1回の全体会議で進捗の報告と課題の確認をしています。また一般社員への啓発が重要と考え、イントラネットを中心とした情報発信とeラーニングを活用した新型インフルエンザに関する知識と社内規程などへの認識の向上を図っています。2008年5月には新型インフルエンザ発生をシミュレーションした新型インフルエンザ対策本部の机上訓練を実施し、対策の検証とさらなる課題の洗い出しを行いました。
対策本部の組織と役割は次の通りです。
こうした規程策定と検証を経て企業グループとしての方針は、WHO(世界保健機構)が定義するフェーズに従い次のように規定しています。
(1)事前の対策 | |
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各組織において、フェーズ4となった場合に備えて対策を進めます。 | |
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(2)フェーズ4(小さな集団でヒトからヒトへの感染が確認される状態)が宣言されたら | |
日本ユニシスグループに、日本ユニシス株式会社の経営会議メンバーを本部長とする「新型インフルエンザ対策本部」(以降、対策本部と呼びます)が設置されます。これ以後は、対策本部から対策が発令されますので、全社はこれにしたがいます。 フェーズ4では以下の内容が発令される可能性があります。 |
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徹底指示の発令 |
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(3)フェーズ5(大きな集団でヒトからヒトへの感染が確認される状態)が宣言されたら | |
フェーズ4での発令・指示に加えて以下の内容が追加される可能性があります。 | |
徹底指示の発令 |
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(4)フェーズ6(パンデミック、世界的大流行)が宣言されたら | |
フェーズ5での発令・指示に加えて、以下の内容が追加される見込みです。なお、政府・自治体の要請・勧告や世の中の状況によっては、最悪の場合、対策本部は「全事業所封鎖、全業務停止」を宣言することがあります。 | |
徹底指示の発令 |
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(5)ポスト・パンデミック期 | |
完全な終結までは、再度流行することを前提に対応します。即ち、ポスト・パンデミック期には、フェーズ4の状態への対応を行うことになります。 | |
徹底指示の発令 |
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また、社員個人に対しては次のようなガイドラインを提示しています。
(1)事前の対策 | |
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情報入手 | インターネット、日本ユニシスグループのイントラネットなどの社内外情報により、新型インフルエンザに関する知識を収集し、自衛力を高めることが重要です。 |
通常のインフルエンザ対策の励行 | 手洗い、マスク着用、うがい、季節性インフルエンザ・ワクチン接種、人ごみへの外出を避ける、栄養のある食事の摂取と充分な睡眠など、通常の季節性インフルエンザ対策の励行を心がけてください。 |
食料・日用品の備蓄 | 新型インフルエンザは、1回の流行が数週間〜8週間程度続き、それが終息しても、2回、3回と繰り返し流行することが予想されています。流行の間、社会的な大混乱(店舗の閉鎖や機能低下、物流機能の低下など)と、交通規制により個人活動が制約される可能性があるため、日頃から食料、生活用品の備蓄を進めることが重要です。 |
季節性インフルエンザ・ ワクチン注射の接種 |
予防としては、新型インフルエンザ・ワクチン注射の摂取が最適ですが、ワクチンが製造され流通するには、新型インフルエンザが発生後、半年以上もかかるとされています。一方、通常の季節性インフルエンザ・ワクチンを接種しておくと、季節性インフルエンザには罹りにくくなりますので、インフルエンザの症状がでた場合、新型インフルエンザである確率が高いと判断できます。また、通常のインフルエンザ・ワクチンが新型インフルエンザにも一定の効果があるとの報告もあるので、新型インフルエンザ対策の一環として医療機関にて季節性インフルエンザ・ワクチン注射を接種しておくことが望まれます。(アレルギーなどについては医師にご相談ください) |
(2)フェーズ4(小さな集団でヒトからヒトへの感染が確認される状態)が宣言されたら | |
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(3)フェーズ5(大きな集団でヒトからヒトへの感染が確認される状態)が宣言されたら | |
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(4)フェーズ6(パンデミック、世界的大流行)が宣言されたら | |
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(5)ポスト・パンデミック期 | |
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また参考として次のような情報を提示しています。
【参考情報1】WHOによる新型インフルエンザのフェーズ定義概要
フェーズ1 | ヒトから新しい亜種のインフルエンザは検出されていないが、ヒトへ感染する可能性をもつウィルスが動物に検出 |
フェーズ2 | ヒトから新しい亜種のインフルエンザは検出されていないが、動物からヒトへ感染するリスクが高いウィルスが動物に検出 |
フェーズ3 | ヒトへの新しい亜種のインフルエンザの感染が確認されているが、ヒトからヒトへの感染は基本的にない |
<−−−−−−−−−−−− 2008年7月現在 −−−−−−−−−−−− | |
フェーズ4 | ヒトからヒトへの新しい亜種のインフルエンザの感染が確認されているが、感染集団は小さく限られている |
フェーズ5 | ヒトからヒトへの新しい亜種のインフルエンザの感染が確認され、大きな集団発生が見られる。パンデミック発生のリスクが高まる。 |
フェーズ6 | パンデミック発生、世界の一般社会で感染拡大 |
ポスト・パンデミック期 | パンデミックが終息して、発生する前の状態へ回復する時期 |
(注)フェーズ4あるいはフェーズ5から世界的なパンデミックへの移行が1週間程度で行われると指摘する専門家もいます。ポスト・パンデミック期はWHOでは定義していませんが、日本ユニシスグループの対策としては、完全終息ではない(再流行が起こるかもしれない)期間の定義は有効と考え追加しています。
【参考情報2】スペイン・インフルエンザの被害
スペイン風邪 とも呼ばれているスペイン・インフルエンザはH1N1ウィルスによる新型インフルエンザでした。第1次世界大戦のあった1918年3月にアメリカで始まった流行は、4、5月にはヨーロッパに広がり、その後世界中に広がりました。ウィルスの毒性は、第二波では第一波に比べて比較にならないくらい高くなり、場所によっては致死率20%を超え、最悪の事態となった米国都市フィラデルフィアでは、1週間の死者が5000人を数えたとのことです。流行の期間、社会は大混乱、文字通りのパニックとなったとのことです。
通常のインフルエンザでは致死率は乳幼児と高齢者が高くなりますが、スペイン・インフルエンザでは10代、20代、30代といった年齢層で高くなっていました。これは、免疫機能が高い若年層が過剰にウィルスに反応して自らの体を傷つけたもの(サイトカイン・シンドロームと呼ばれます)といわれています。1919年(一部地域は1920年)まで続いたスペイン・インフルエンザによる死亡者は世界で4800万人から(研究者によっては)1億人と推定されています。
日本では流行の第一波は1918年、第二波は1919年、そして第三波が1920年と、3年に渡り繰り返されました。当時の総人口5500万人に対し、43%が感染し、39万人が死亡しました。平均では、死亡率0.7%、致死率1.6%になります。第二波の流行では重症度が高く、致死率は10%となった時期もあったようです。1923年の関東大震災による死亡者は10万人ですから、それの4倍近い犠牲が強いられたわけです。スペイン・インフルエンザのほかに、20世紀では1957年〜58年H2N2ウィルスによるアジア風邪、1968年〜69年H3N2ウィルスによる香港風邪が新型インフルエンザとして流行しています。前者は感染の広がりはスペイン・インフルエンザよりも大規模でしたが、症状は軽かったとされています。後者は、さらに穏やかな症状で、致死率も低かったとのことです。
参考:「新型インフルエンザ」山本太郎著(岩波新書)
【参考情報3】個人備蓄の例(出典:WHOガイド)
家庭において数週間分の備蓄があると望ましい品目例 | |
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食料等 | 米、乾燥麺(そば、そうめん、うどん、パスタ等)、切り餅、コーンフレーク・シリアル類、カンパン、各種調味料、レトルト、フリーズドライ食品、冷凍食品(温度管理・停電に注意)、缶詰、菓子類、インスタントラーメン、ミネラルウォーター、ペットボトル・缶入り飲料 など |
医療品・日用品 | 常備薬(胃薬、痛み止め、持病の処方薬)、絆創膏(大・小)、ガーゼコットン、解熱鎮痛剤(アセトアミノフェンなど。薬の成分によってはインフルエンザ脳症を助長するものがあるので、医師・薬剤師に確認のこと)マスク(サージカルマスク、N95等)、ゴム手袋、水枕・氷枕、消毒用漂白剤(次亜塩素系)、消毒用アルコール、ペットフード など |
災害時備品 | 懐中電灯、乾電池、携帯電話充電キット、ラジオ、携帯テレビ、カセットコンロ、ガスボンベ、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、キッチン用ラップ、アルミフォイル、洗剤(衣料・食器用等)石鹸、シャンプー・リンス、保湿ティッシュ、生理用品(女性)、ビニール袋(汚染されたゴミの密封に利用) など |
【参考情報4】咳エチケット
厚生労働省が呼びかけているマナーで、人前で咳やくしゃみをする場合には以下を注意する |
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【参考情報5】参考サイト・文献
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山本太郎著「新型インフルエンザ−世界がふるえる日」(岩波新書、ISBN-13: 978-4004310358)(新書)
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岡田晴恵著「H5N1−強毒性新型インフルエンザウィルス日本上陸のシナリオ」(ダイヤモンド社、ISBN-13: 978-4478002407)
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J.M.Barry著「グレート・インフルエンザ」(共同通信社、ISBN-13: 978-4764105508)