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学習する機械と人との協働による新たな価値創造

機械学習技術は、電子メールの迷惑メール判別やソーシャルメディア上の発言の分類など限定された領域で利用されてきたが、機械学習技術そのものや関連技術の発展により、従来の適用領域を大きく超えて活用されるようになる。機械学習技術は人と協働する形で利用され始め、人は人にしか出来ない作業に専念できるような環境が整い始める。また人との協働を通して、人だけでは得られなかった新たな価値が生み出されるようになる。

学習する機械と人との協働による新たな価値創造

背景と現在の状況

機械学習とは、具体的にプログラムされた命令ではなく、コンピュータが経験(データ)によって性能を向上させるようなアルゴリズムやシステムを実現するための技術や手法であり、データ利活用の一形態と捉えることが出来る。機械学習技術は、電子メールの迷惑メール判別や、OCR(光学文字認識)、ソーシャルメディア上の発言の分類、顧客へのリコメンデーションなど、限定された領域で人間の作業を補助する形で利用されてきた。

従来、機械学習技術を適用するためには、事前にデータのどのような点に注目して学習するのかを選定する(特徴抽出)、適切な学習を行うために学習に用いるデータの質を高める、といった人間の関与が必須であった。また必要な精度を得るために、パラメタを調整しつつ試行錯誤を繰り返すことも必要であった。そのため、スキルや要員数など人に関わる要因により適用範囲や適用スピードが制限されることがあった。

近年、機械学習技術は大きな転機を迎えている。すなわち、機械学習技術そのもののブレークスルー(例えば、従来は人間が行っていた、キーとなる変数の選択を自動的に実施し、高い精度が実現された)、IoT(Internet of Things)の浸透による利用可能データの種類・量の更なる増大、クラウドによるITリソースの柔軟な利用の実現などを背景に、適用範囲の拡大が期待され、人間と協働する形での利用が模索され始めた。複数の銀行で、コールセンターのオペレーター作業支援のための活用検証が行われているが、これはそのような動きの例といえる。

3〜5年後の姿

機械学習の利用は、利用可能なデータの多様化(例:センサー技術の進展)、機械学習技術そのものの進展、判断結果を実世界へフィードバックする技術の高度化(例:ロボット技術の進展)といった3つの面で進化し、適用範囲が広がっている。また、人の関与が必要であった部分の自動化が進み、適用までのスピードも改善されている。また、異なる機械学習技術の比較や、有効と考えられるデータの組み合わせの実証実験を容易に行える環境が整い、問題解決に最も有効な手法、データの選別が迅速化される。これらにより、機械学習利用のハードルが下がる。機械学習技術により対応可能な作業は機械に実施させることが現実的な選択肢となり、人は人にしか出来ない作業に専念できるような環境が整い始める。人と機械がお互いに得意な分野を担い協働することで、新たな価値が生み出される。

機械学習技術適用の広がり

機械学習技術そのものの進展や使用可能なデータ量/種類の増加などにより、機械学習の適用範囲が広がる。代表的な適用領域である、音声/画像認識などのパターン認識、人の意思決定を支援する判断支援、課題に対する解決策の検討を支援する仮説提示では、以下のように活用が広がる。

  • パターン認識
    音声画像などの認識レベルが人間に近づき、人と機械のコミュニケーションの幅が広がっている。ディープラーニング技術などが成熟し、画像と音声を組み合わせた学習が可能になり、人の感情表現も考慮した、より自然なコミュニケーションが可能になっている。

    • コールセンターのオペレーターに代わり、音声による問い合わせに対し音声で回答する

    • ある人物あるいはグループの行動や会話から関心事が推定できるようになり、犯罪防止に活用される

  • 判断支援
    時間的/量的制約から人が扱いきれない情報を機械が整理・提供し、人が判断を下す支援が行われている。ドキュメントを理解するための自然言語処理技術が発展し、用語の使い方の差異や揺らぎ、隠語などを自動的に認識し、それらを加味した評価が可能になっている。

    • 判例調査などの分野でドキュメント化された過去事例から結論を導き出す

    • 人に代わり、小論文の採点を行うようになる

  • 仮説提示
    課題解決のための仮説が、人間の先入観にとらわれない視点から提示されるようになっている。仮説生成技術やその評価技術が発展し、仮説提示の根拠と共に示されるようになり、機械が判断した真意を人が理解できるようになっている。

    • 求められた効能を持つ薬剤を、限定された原料で製造するための組み合わせを提示する

    • 異なるデータセット間で、同等の意味を持つ異なる表現を見つける

    • 事故発生時のドライブレコーダーの映像を自動的に解析し、過失割合を判定する

人間の役割の変化、人と機械学習の連携

機械的に判断できる部分は、文字通り機械に任せることができるようになり、人は人間にしか出来ない作業に集中できるようになる。人と機械がお互いに得意な分野を担い協働することで、新たな価値が生み出される。機械学習は人が想像も出来ない結論を導き、人に新たな気づきを与えることが出来る。一方、人はこの気づきから学び、新たなアイデアを考えることが出来る。このようなサイクルを繰り返すことが一般的になり、人だけでは得られなかった価値が生み出されていくようになる。その結果、機械学習技術の適用が益々進む。他方、機械学習を適用する際に生じる課題に対する社会的合意や法環境の整備が進まないと、機械学習の適用が進まない可能性もある。そのような課題の例として、問題が生じた際の責任を誰が負うか、新たな発見の知的所有権は誰に帰属するか、などが考えられる。

適用可能領域や使用できる技術/データなど機械学習技術を取り巻く環境は常に変化している。その変化を見極め、機械学習技術を適用できる領域および利用可能な技術/データ全体を目利きできることが競争優位の観点で肝要となる。

機械学習技術が社会に与えるインパクトについての議論の広がり

職業に対する脅威や人の生死に関わる判断を機械に行わせることの倫理的問題などが、識者の間で議論されてきた。機械学習の適用範囲が広がり、社会に対するインパクトが大きくなるにつれ、そのような議論が一般社会にも広がる。対象とする分野によって、議論の深さに差ができるが、身近な問題、例えば、職業に対する脅威や自動車の自動運転にまつわる課題などについては早い段階から議論が深まっていく。このような議論を通し、機械学習技術の適用可否、社会的課題の顕在化、必要な法環境などについての社会的コンセンサスが形成されていく。

機械学習技術が高度化し、人間と同等かそれ以上の能力を持つようになるとする研究者もいる。その様なことが実現する時期はまだ先と考えられるが、実現したときのインパクトや社会的課題についての議論が、少しずつ広がり始める。

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